チケットのご予約
back

Interview@philiahall


人をつつみこむあたたかい音色─ホルンの真髄を求めて─
ホルン:福川伸陽

2011年3月11日(金)11:30
福川伸陽

 

2010年10月“ラプソディ・イン・ホルン”で遂にソロ・CDデビューを果たした、気鋭ホルン奏者の福川伸陽さん。日本フィル首席ホルン奏者としてオケ仲間からも信頼の厚い実力派が、平日のお昼に気軽に音楽を楽しめる人気シリーズ《らん・らん・ランチにいい音楽》に3月に登場します。田園都市線沿線にお住まいの福川さん、オーケストラの練習のお休みの日にフィリアホールでお話をうかがいました。

CD“ラプソディ・イン・ホルン”はすごく遊び心にあふれています。

少しでも多くの方にホルンの魅力を知っていただきたいと考えたときに、誰でも知っているメロディを編曲してホルンで吹くというコンセプトに決まりました。その結果、アルプスの少女ハイジから始まり、僕の大好きな音楽がたっぷりと・・、ラプソディ・イン・ブルー、クィーンのボヘミアン・ラプソディ、リベル・タンゴ、そして、ミュージカルよりトゥナイト、映画音楽のニュー・シネマ・パラダイスなどが入ることとなりました。

その世界をそのままに、3月のフィリアホールのステージでも聴かせていただけます。

ホルンはオーケストラではおなじみの楽器かもしれませんが、ソロコンサートを聴いたことがある方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか?狩のときの角笛をイメージしたロッシーニのグランド・ファンファーレから始めて、フォーレのシシリエンヌ、ピアソラのリベルタンゴ、フレディ・マーキュリーのボヘミアン・ラプソディ、ガーシュウィンのラプソディ・イン・ブルーなど、ジャンルを問わないおなじみの曲を通してホルンの音にじっくりと触れていただき、ホルンってこんなこともあんなこともできるんだと知っていただけたら嬉しいです。一方で、ホルンのオリジナル曲もやはり聴いていただきたいので、ベートーヴェンのホルン・ソナタを当時使われていたオリジナル楽器のナチュラル・ホルンで演奏します。管がぐるぐると巻かれただけのシンプルな構造で、出せる音も限界がありますが、ベートーヴェンはその特性を逆に利用して名曲を作りました。

福川伸陽

ずばりホルンの魅力は何でしょう?

なんといっても音色です。人をつつみこむようなあたたかい音で、金管楽器らしい威勢の良い音も出る。オーケストラの数ある楽器の中でも、ホルンは唯一ベルがお客さんの方を向いていない、音を反響させて聴かせる楽器です。

ホルンを始めたのはいつですか。

中学のブラスバンド部です。初めは一番目立つトランペット希望だったのですが、ジャンケンで友達に負けました。チョキでした(笑)。部活は楽しかったですね。中学2年のときにはホルンをずっと吹いていきたいという気持ちがすでに芽生えて、中学3年で丸山勉先生のコンサートで感動して「弟子にしてください」と直談判しました。ダメだと思ったらすぐにホルンを辞めさせると脅されましたが、今のところ言われていないです(笑)

音大から、あっという間に日本フィルに入団されました。

武蔵野音大に入りました。残念ながら芸大は落ちてしまったのですが、その悔しさで当時は1日10時間練習しました。今そんなことをしたら、翌日楽器を吹けなくなりますが、若気の至りですね。大学は授業の単位が足りずに留年しかけて2年で中退しましたが、ホルンを辞めるつもりは全くなく、たまプラーザのイタリア料理店でアルバイトをしながら、週一回レッスンに通っていました。その年の夏に参加したスイスの講習会では、海外の同世代の学生たちが、自分ができるできないに関わらず、はっきりと自分を表現することに驚いて、すごく良い刺激をもらいました。そして秋には日本音楽コンクールで入賞、翌年すぐに日本フィルのオーディションがあり、受かってしまったのです。2002年入団です。

2006年から1年間のロンドン留学が転機になったそうですね

大学在籍期間も短かったですし、まだまだ勉強したい気持ちが強く、入団後3年たてば留学が認められるので、アフィニス文化財団の奨学金をいただいてロンドンに行きました。デニス・ブレインという夭折した天才ホルン奏者がいますが、シンプルで飾らない、だけど陰影のある、まるで水墨画のような演奏が大好きで、ブレインの出身地という理由でイギリスに行きたかったのです。あとは、ビートルズやクィーンも好きでしたし。ロンドン響首席ホルン奏者のデヴィッド・パイアット氏に師事しましたが、彼もやはり天才的なプレイヤーで、身近に接してみて、天才も日々努力しながら音楽と向き合っていることが改めて分かりました。楽器の具体的な奏法でいうと、音をつなげるレガートの意識が徹底しています。何となくレガートするのと、意識してやるのとでは全く違って聴こえるのです。ほかには、ゲルギエフ指揮のロンドン響、マーラーの交響曲第3番に出演させていただいたり、バービカンホールのデッドな音響だからこそロンドン響の管楽器の豊かな響きが生まれたのかと、拠点ホールとオーケストラの響きの関係性に気づかされたりと、とにかく収穫の多い密度の濃い一年でした。帰国後は周りからも「音が太くなった」「音楽が大きくなった」と言われて、2008年の日本音楽コンクールでは3度目の正直(笑)で優勝することができました。僕はソリスト志向も強いので、これからもオーケストラとソロの両方で、いろいろ新しいことにチャレンジしていきたいと思っています

「子どもが生まれてからは時間がとれないけれど、映画を見るのが大好きです。ほろりとさせられるのも良いけれど、インディージョーンズ、007シリーズは最高!」誠実で気さくな好青年が、切れのある抜群の演奏とトークで、ホルンの多彩な魅力を皆さまにおとどけします。どうぞご期待を!