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Interview@philiahall


幕開けの瞬間(とき)!大いなる喜びをもって
ピアノ:三浦友理枝

2012年8月25日(土) 18:00

 

きらめく繊細な音、華奢な姿からは想像しがたい力強く邁進する音楽。そしていつもユニークで芯のあるプログラム。才色兼備のピアニスト、三浦友理枝さんが、2007年ソロ、2010年(ヴァイオリンの川久保賜紀とチェロの遠藤真理との)トリオ公演に続き、“女神との出逢い”シリーズに登場します。ソロとしては実に5年ぶり、8月の公演に向けてお話を聞きました。

2007年8月25日がフィリアホールでの初めてのリサイタルで、偶然にも今年も全く同じ日となりました。トリオ・デビューなども経て、この5年でご自身の変化はありますか。

5年前は英国王立音楽院留学中で、卒論を書きながら、そのテーマに沿ったコンサートを組み立てる一番大変な頃でしたね。フィリアホールのリサイタルでもその流れで、シマノフスキとショパンを弾きました。当時に比べるといまは、ソロのほか、デュオやトリオ、コンチェルトなどのコンサートも増えて、限られた時間の中でどのように1回1回の演奏のクオリティを保つか、それに向けてどう準備していくのかが問われます。昔はコンサートの内容を欲張って盛り込みすぎて、本番までに間に合わないかも!とあせることもありましたが、いまは妥協なく最大限に自分を表現するために、計画的に物事をすすめられるようになりました。また、いろいろなコンサートでの経験を重ねて、演奏でも自分のことだけに無我夢中だったのが、聴いてくださるお客様とのコミュニケーションを楽しむことに意識が変わってきています。

今回のコンサートも、いかにも三浦さんらしいテーマ性のあるプログラムで、ルーセル、シマノフスキ、ラヴェルと、20世紀初めの3人の作曲家たちに焦点をあてます。

私がずっと取り組んできている大好きな作曲家であるラヴェルとシマノフスキが、2人ともたまたま1937年没で、実はガーシュインとか、ルーセル、ピエルネなどの他の作曲家も同じ年に亡くなっているのです。この“同時代”をテーマにプログラムを組んでみたいと以前からずっと考えていて、それが今回ようやく実現します。ラヴェルと関係の深いガーシュインもプログラムに入れたかったのですが、ラヴェルがガーシュインの影響を受けてジャズっぽいものを書いたのはかなり後期で、ソロの曲があまりなく、全体のプログラムのまとまりに欠けてしまうので、ガーシュインは泣く泣くカットしました。プログラムを組んだ後に分かったのですが、今回演奏するほとんどの曲がちょうど1905年前後に書かれているのです!背景をもっとよく調べて、三者三様にそれぞれが求めていたもの、あるいは同じ時代をともにした共通する想いなどを、2時間のコンサートの中で表現できたらと思っています。

3人の作曲家像、演奏する曲についても教えてください。

シマノフスキの曲はとてもドラマティックで力強い。最初に出会った曲が「ヴァイオリン・ソナタ」で、独特の音の響きに衝撃を受けてすっかりはまってしまいました。ヴァイオリン・ソナタは若いころの作品ですが、ロマン派の流れを受けた初期、ギリシャ神話やオリエンタリズムがテーマの中期、マズルカなどの地元ポーランドの民俗音楽を中心とした後期と、時期によって曲想の特徴があります。ショパンから続くロマン、ワーグナーのような規模の大きさ、華やかさ、チャイコフスキーのような土俗性に満ちたところなど、さまざまな要素がいいバランスで混ざり合っているところに惹かれるのです。今回は最初にシマノフスキに出会った頃のときめきを思い出させてくれる初期の作品、前奏曲集Op.1から5曲とピアノ・ソナタ第1番ハ短調Op.8を弾きます。一方ラヴェルは、同じ時代を生きながら、時代を逆行した人かもしれません。「水の戯れ」を作曲してドビュッシーよりも先に印象派の世界に入っていきながら、年を重ねるほどだんだん古典に回帰していく。シマノフスキとは対照的です。ラヴェルはデビューから少しずつ取り上げてきて、今回の「鏡」でいよいよソロの曲は全て弾き終えることになります。形式がすごく自由で規模が大きな曲集で、本腰を入れて取り組むにはまだ先かなと遠慮していたのですが、実際に全部通して弾いてみると、改めてすごい曲集だと感じます。全5曲の構成で、「道化師の朝の歌」は有名ですが、それぞれについているタイトルと曲調のマッチングが見事で、その絶妙さをお届けしたいです。まさに印象派そのものなので、タイトルのイメージや色合いをどれだけお伝えできるか、音色で勝負ですね。例えば「悲しい鳥たち」は、夏の暑さで鳥がうだっている様子を描いていて、初めて聴く方にもその暑さをいかに感じていただけるか。また、「鐘の谷」ではラヴェル自身、ロマンチックにと言っているのですが、鐘が鳴り響くロマンをどこまで表現できるか。ラヴェルは本当の感情をあまり見せない奥ゆかしさがあって、どこか日本人にも通じるものがあると思います。ルーセルはそれほど知られていない作曲家だけに資料が少なく、いま色々と調べているところです。「水のほとりの踊り」「祭りからの帰り道」と、お客様もタイトルからイメージを描きやすいでしょうし、ラヴェルにスムーズにつながるフランスの印象派ということで、コンサートの最初に弾きます。

今後のご予定はいかがでしょうか。

これでラヴェルはひと段落しますが、シマノフスキはずっと取り組んでいきたいです。地元ポーランドではよく演奏されていて、世界的にも少しずつ取り上げられてきていますが、ピアノ作品の知名度はまだまだですよね。全部でCD4枚分くらいのピアノソロの曲があって、いままで弾いたのは半分くらいです。シマノフスキは晩年ザコパネに住んで農民たちの歌を収集研究して、マズルカを20曲くらい書き残しているのですが、響きが面白くて、いつかコンサートで全曲弾けたら嬉しいです。主催者側からは、やめてくれときっと言われますが(笑)。今年は生誕150年のドビュッシーも弾く機会がありますし、そのうちまた大好きなショパンにも戻りたいとも思います。バッハ、ベートーヴェンはまだ遠い存在でしょうか。

ピアノを弾くアマチュアの方へ何かアドバイスをいただけますか。

やはり自分が一番弾きたい曲、目標の曲があると良いですよね。憧れの曲を弾く自分を思い描けば、ちょっとつらい基礎練習もがんばることができます。

あらためてピアノの“魅力”を教えてください。

たくさんの可能性が開けた素晴らしい楽器です。唯一自分の楽器を持ち運びしない楽器ですが、コンサートホールにある同じピアノでも、弾き手によって全く違う音が出ます。人の話し方、声、スピードが一人ひとり違うように、ピアノの語り口もさまざまなのです。

普段のリフレッシュ方法はありますか。

昨夏からインコを飼っているのですが、手に乗ってよくなついています。世話をするのがちょうど良い息抜きですね。ベランダに出しておくと、外の鳥たちが近くでさえずったりして、メシアンの「鳥のカタログ」(鳥の鳴き声をピアノの音で模倣した曲)の演奏にも役立っています(笑)。

好きな食べ物は?

イタリアン。毎日食べても飽きないです。

苦手なことは?

水泳と虫。生来のカナヅチで、虫も生理的に全くダメです。

ご趣味はありますか。

美術館によく行きます。文学、美術、音楽は全部つながっているからと先生に言われて、高校時代から通うようになりました。フランスの印象派から、シャガール、ユトリロ、ダリ、レンブラント、日本画も何でも好きです。岡本太郎展でも、まるで絵が大音量を発しているかのようでショックを受けましたね。映画からも影響を受けます。エディット・ピアフの映画で「演じていて最高なのは、幕が上がる瞬間よ。」とピアフが言い放つシーンがあるのですが、普通なら一番緊張してしまう始まる瞬間を楽しもうとするその言葉にドキっとして、表現者たるものこうあるべし!と強く思いました。