Fhilia Hall
アーティスト インタビュー

山崎伸子(チェロ)

2017年5月11日 14:00コンサートの詳細

 

輝く若手演奏家を紹介する室内楽企画、始動!

フィリアホールではこれまでの国内外の一流アーティストによるクラシック・コンサートと並んで、音楽を専門的に学ぶ若手アーティストの発掘・育成にも本格的に力を入れていきます。今回始まる新企画「未来に繋ぐ室内楽」シリーズは、音楽のすべてが現れる「室内楽」によって有望な若手アーティストをいち早く紹介するとともに、彼ら自身にもステージでの演奏の機会を提供し、聴衆の皆さんの応援とともに成長を見出してもらいたい、という企図でスタートするコンサート・シリーズです。今回は本企画をプロデュースし、ご自身の演奏活動とともに大学での教育活動も精力的に携わるチェリスト・山崎伸子さんに、お話を伺いました。

 

 

まずは、今回出演されるクァルテット・トイトイについて簡単にご紹介をお願いします。

 

山崎:最近の上手なカルテット(弦楽四重奏)の傾向として、4人弾ける子が揃えばある程度のレヴェルまでは簡単に形になってしまうのですが、アンサンブルに問題がないとそれ以上曲に対する踏み込みがなく、物足りない演奏になってしまいます。でもこのクァルテット・トイトイはまだ大学生の若い子たちですが、自分たちのアイディアをちゃんと曲に反映してくる。個人個人が上手いだけではなくて、曲の構成を創る過程で考えをしっかり打ち出してくるのです。そして、それを緻密に仕上げる能力も持っている。その結果とても自発性があり説得力のある演奏をします。そこが他のグループとは違う点で彼らを推薦しました。
沢山カルテットを教えていますが、多くはとても上手だけど、あまり印象に残らない。例えるなら、美味しい飲みやすいジュースをズーと飲んでいるような、苦みとか色々な味を求めていないというか・・・。メンバーの中に個性的な子がいたりすることもあるのですけど、日本人はもめるのが嫌いみたいで(笑)。もめてまで深く音楽を追究していかない。特に若い子たちはそういう傾向があると思いますね。

 

山崎さんはご自身の演奏活動のほか大学でも教えておられますが、それとは別に、こういったホールでの教育的プロジェクトについて取り組むことになったきっかけ、意図はなんでしょうか。

 

山崎:もちろん、教育だけでも生徒たちの力を引き出すことが出来るのですけれど、過去、同様の企画で若いグループと一緒に弾くということを経験して、やはり自分の持っているステージでの本番での空気のつかみ方…他のメンバーをどのように導くか、音色やホールでの音の作り方等、そういうものは本番を通さなければ分からないことが沢山ありまして。ひょっとしたら何回もレッスンするよりも、1回ステージで演奏したほうが、生徒たちも理解できる。あと、練習と本番での違いも。いつも練習どおりに演奏するということではなくて、本番にこそお客様の空気とか、ホールの空間でしか経験できない即興的なものもあるということを、これまでの取り組みで生徒たちに伝えられたのではないかと思っています。
それとこうした企画では、お客様が彼らを育てていけるのではないかとも思います。ベテランの人たちが自分の世界を作るという素晴らしさもありますが、若い子たちが時間をかけて勉強し、一生懸命曲を作っていく過程をお客様に経験していただくのですね。それと気軽に来られる料金も魅力です。初めて見るまだ若い子たちが本当に素晴らしい演奏をしていて、それがひょっとするとプロの人たちより新鮮に、お客様の中ではそういう緊張感とか新鮮さみたいなものを経験するので、やみつきになるという方も(過去の同様の企画では)沢山いらしたようです。それをぜひ一緒に作っていきたい、お客様と作っていきたいコンサートにしたいと思っています。

 

先ほどのお話に関連して、今回紹介するジャンルとして今回「室内楽」を選ばれています。室内楽で優秀な学生を紹介するところのメリット、魅力をもう少しお伺い出来ればと思います。

 

山崎:朝5時からやっている「クラシック倶楽部」というテレビ番組で、庄司紗矢香さんとメナヘム・プレスラーさんの公演のときに、お二人のインタビューで、プレスラーさんが「音楽のすべてが室内楽である」とおっしゃっていたんです。何をするにも。
いわゆるピアニストだってパートがあって、それを自分一人で-室内楽でないですけれども-作っている。オーケストラにしても、室内楽の延長であると。コンチェルト(協奏曲)にしても、自分のソロがあるけれども、やっぱりオーケストラとの室内楽であると。そういう意味で、カルテットというのは、本当に音楽が凝縮されたものだと思うんです。ソロを勉強するにしたって、自分のパートだけをやっていたら音楽的に本当に足りないものになるわけで、室内楽をやることによって、内声の役割とかバスの役割とか、そういうことを総合的に色々と勉強できる。今回はカルテットをやりますけれど、カルテットの曲というのはある程度大きい曲が多くて、それは音楽の構成を作るという意味では非常に勉強になる素材なんです。ベートーヴェンなどは、カルテットを作ることでシンフォニー(交響曲)につながっていますし、どの作曲家も大きな曲を作るためにカルテットを作って勉強している。そういう意味で作曲家の元になっている、色々な大きなものを作る元になっている室内楽を我々が勉強することによって音楽の作りとか全部を勉強できる。ですからそれを勉強することは自分のソロにもつながっていくということですね。

私自身のことですが、小さい頃からチェロを勉強していましたが、中学3年生から先生にメンバーを決められて、カルテットを組まされ勉強させられたんですよね。同じメンバーで8年近く。それが今の自分の音楽作りのすべてになっている。あの経験がなかったら現在の自分はないと思っています。私は怠け者なので、練習するのも好きじゃなかったし、チェロもあまり好きじゃなかった(笑)。でもそこでカルテットのチェロをやることによって、あ、本当にチェロをやって良かったな、とあらためて思いました。高校の2年の時、ベートーヴェンのカルテットをやっていて、音楽作りの面白さに目覚めたんです。和声感から何から、本当に分かっていないと、チェロパートというのは作れないのです。あとはテンポ設定。ベートーヴェンとかハイドンとか、古典作品を演奏する時には特にテンポ設定がすべて音楽作りにつながっていると学びました。メロディを綺麗に弾いたところで、同じメロディでも、最初に出てきたものと、後半に再現部で出てきたのと、何がどう違うのかというのは、やはりテンポ設定なり和声感なり内声がどう変わるかで、弾き方が全部変わってきますから。すべてが、そういう音楽の構成を勉強することによって成り立っているということですね。

 

山崎さんがチェロを始められたきっかけというのは?

 

山崎:最近の若い子たちは自分からやりたいという子も多いでしょうが、私が始めた1960年代初頭の頃は、周りに弦楽器をやっている人なんて全然いませんでした。ただ高度成長期で、私の親の世代はみんな戦争を体験した人たちなので、自分の青春は全部つぶされているわけです。そうすると、生活に少し余裕も出てくると、子供の教育に力を入れる親が周りじゅうにいました。どこの家庭も余裕が出てくるとアップライトピアノを購入して、ピアノを始めるとか、教育にお金を使う事が始まった時代でした。
その流れで、町の先生にピアノを習い始めました。小学3年の時に桐朋学園の分室が広島に出来まして、私の親は桐朋学園なんて何も知りませんでしたが、ピアノの先生が音楽教室に入ったらどうか、とおっしゃって、なんとかギリギリ入りました。小学4年の時に、分室に東京から毎週チェロの先生を呼ぶと…。斉藤秀雄先生の学生のお弟子さんたち、原田禎夫さん、藤原真理さん、安田謙一郎さん、そういう方々が毎週入れ替わり立ち替わり、違う先生がいらっしゃるチェロ教室の公募があったわけです。でも当時まだそんなにチェロという楽器は知られていませんから、人が集まらない。そこで音楽教室の、ピアノのあまり上手ではない子たちに、どうですか…って(笑)。それでチェロを始めた訳です。ピアノがすごく上手だったら、チェロはやっていなかった(笑)。

 

ヴァイオリンやピアノは本当に小さい頃からの英才教育が定着していますが、それ以外の、管楽器や大きい楽器などはなかなか小さい頃からというのは難しいですよね。

 

山崎:先日、オーボエの宮本文昭さんとある対談でちょっとお話して、「いやー、弦とかピアノはお金持ちのお嬢さんがやるもので…。金がないのが管楽器なんですよね!」とか仰ってね(笑)。あとは始めるのが遅い、とかね。お金が無いから仕様がないから、学校の吹奏楽で始めたとか、そういう連中しかいない、とか仰って(笑)。金持ちだったからだよ、って。そんな家庭ばかりではないのですが、ある程度余裕がないと、難しいかもしれませんね。

 

桐朋学園は歴史的に弦楽器の教育システムが確立されていますから、そこに入っていけたということはすごく貴重なことだったのでしょうね。

 

山崎:偶然ですよね、チェロに変わることが出来たというのも、斎藤秀雄先生にお会いできたというのも、本当に素晴らしい人との出逢いがここまでの自分につなげて下さったので、反対に今度は自分が…。4年生から始めて、5年生でもう東京に出てきたのですよ。信じられませんね。
広島の実家ではチェロ教室が始まってから半年目に、自宅のレッスン室をチェロ教室として提供していたんです。夏休みや冬休みの間は下見みたいな感じで、中学校くらいから教えていたんですね、自分より小さい子たちを。そういうこともあって、高校1年から月に1回教えに帰っていましたね、今考えると、高校1年生が教えに行っていたのですよ。まあ、自分より小さい子たちですけれども、ビックリです(笑)。ですから教えるという意味では、自分の教わったものは還元していく、得たものは伝えていかなければいけない、という気持ちが当たり前のようにありました。

 

カルテットに限らず、音楽を学ぶ若い人たちに向けてメッセージをお願いします。

 

山崎:学生の時にこそ、自由に室内楽を勉強できる環境にあると私は思っています。どこの学校にせよ、もしそういう勉強環境やシステムがあるならば、ぜひ弦楽器ならカルテット、ピアノだったらトリオなり室内楽なり、なるべくソロだけでなく勉強してほしいです。カルテットならヴァイオリンの他にヴィオラとチェロというパートが出てくる訳ですが、その違うパートの音色や音楽的性格とかを学ぶことによって、自分の世界がぐんと広がるということを学んでほしい。ピアニストにしても-ピアノは打鍵楽器ですが-、弦楽器と共演することで、いわゆるピアノのテクニックでしか発音できないものが、弦楽器が入ることによってどのように自分の音を広げていくかを学ぶことで、それはコンチェルトにもつながっていくと思います。室内楽の勉強は他の楽器の音楽観の違いも学べるところだとも思っています。そして出来れば同じメンバーで、数年は続けてほしいですね。
あともうひとつ、人間関係の勉強は重要です(笑)。やはり自分の音楽を通すには、それを通して欲しいし、その時にどのように説明するのか…プレゼンテーションですよね。話し方によって、伝わるものも伝わらなくなるとか。極端に言えば、結婚することと同じですから(笑)。ある意味妥協しつつ…妥協も必要だけれども、自分の意見も通すことも必要で、そういう人間的な付き合いの勉強にもなりますね。
あと室内楽の面白さっていうのは、各自の音楽の方向が同じであれば、技術的なレヴェルの差が多少あってもお互い補いつつ、これも勉強です。うまくすれば説得力のある素晴らしい演奏ができるのです。そしてみんなで作った達成感がある。そういう経験を学生の頃に是非やってほしい。彼らの音楽人生において活きてくると思いますよ。

 

そしてあらためて、今回聴きに来ていただくお客様にメッセージをお願いします。

 

山崎:この企画第1回のクァルテット・トイトイはVlの2人は高校2年、あとの2人は大学1年から結成して3年目になる若いグループです。プログラムはモーツァルトとドビュッシーの魅力溢れる名曲を、最後に彼らの仲間と私が加わり親しみやすいドヴォルザークの六重奏を演奏します。彼らの精緻なアンサンブルと若いエネルギーを楽しんでほしいですね。そしてお客様も一緒になって共感し音楽を作っていく雰囲気を味わってほしい。あと日本には素晴らしい若手がいるということを知ってもらい、今後の成長を見守っていってもらいたいと思います。

 

 

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