2007年チョン・ミョンフン指揮、モーツァルト「イドメネオ」のイリヤ役で絶賛を浴び、NHK「ニューイヤーオペラコンサート」には3年連続で出演。ザルツブルク留学を経て、清廉な歌声と卓越したテクニックにますます磨きをかけた声楽界の若手ホープ・臼木あいさんが、いよいよフィリアホール《女神との出逢い》シリーズに登場します。
音楽をはじめたきっかけを教えてください。
母が声楽家なので、幼いころから子守唄がわりに母の歌声を聴いていました。歌を聴きながらよくピアノの椅子で寝ていたそうです。4才ときにピアノを習い始めましたが、あまり練習をしないので母によく怒られていました(笑)。歌は好きでしたが、専門的に勉強を始めたのは高校1年生の終わりごろで、伊藤京子先生に習い始めました。最初に声を聞いていただき、「習いにくる?」とおっしゃっていただいたのです。音大を受験しようと決めたのは高校3年生のときで、教員免許を取るという条件付きで、芸大に進学することにしました。
22才の若さで日本音楽コンクールを制覇しました。この年齢での受賞は声楽では異例のことです。
芸大では、1年生は「(入学の)歓喜」、2年生「怠惰」、3年生「(将来の)不安」、4年生「絶望」なんてよく言われるのですが、歌の道でやっていけるかなと本気で考え始めたのは大学3年生の時に安宅賞をいただてからです。日本音楽コンクールは、大学院1年の時に、コンクールの雰囲気を味わいたい、また毎年チャレンジしながらいずれ賞を取れれば、という気持ちで受けたので、優勝できたのは本当に運が良かったのです。でも、そこからは大変でした。まだ22、3才で声も完成されていないのに、演奏会の数が増えて、千人規模の大ホールでオーケストラをバックに歌う自分がいて、そのギャップを埋めようと当初は毎回必死でした。その後、ザルツブルクに留学をして、たくさんの本物の声の響きを聴き、自分なりの経験を積む中で、徐々に目指す方向が明確に見えてくるようになりました。
ザルツブルクでの留学生活はいかがでしたか。
1人暮らしは初めてでしたし、日本の都会と比べて不便なことも多く、日常生活がサバイバルで、最初の半年間は歌どころではなかったです(笑)。言葉も必要に迫られるのが一番の語学の上達法だなと実感しました。ザルツブルクで暮らすことで、ドイツ語の響きや扱い方が、理屈でなく自分の中に入ってくるようになったのがとても良かったです。今回歌うドイツ・リートでも、その成果を見ていただきたいと思います。
今回のリサイタルでは、日本歌曲からドイツ・リート、そして得意のモーツァルトのオペラ・アリア、臼木さんの委嘱作品まで、今臼木さんが表現したいことの全てを詰め込んだこだわりのプログラムです。
留学を経験して、いかに日本人として歌い続けていくことが大切かに気付きました。中田喜直の可愛らしい歌、「六つの子供の歌」を選びましたが、日本語の歌は歌詞がダイレクトに伝わりますから、お客様にとっても聴きやすいと思います。ヴォルフは大好きな作曲家の1人です。「メーリケ歌曲集」はメロディックで、主に情景描写の作品です。歌曲は表現の幅が広くてとても難しいのですが、言葉のリズムがいかに音に自然に乗るかがポイントです。モーツァルトの「イドメネオ」は2007年のチョン・ミョンフンさんとの共演が本当に素晴らしい経験となって、また新たなモーツァルト像を発見しました。同じくモーツァルトの「ツァイーデ」は日本ではほとんど上演されていない未完のオペラで、今回歌うアリア2曲はとても難しい曲ですが、こんなにも素晴らしいモーツァルトを皆さまに知っていただきたいと思い選びました。マイアべーアの「影の歌」は学生時代にも歌ったことのある、ルチアの「狂乱の場」のような、コロラトゥーラの曲です。山田香さんの「スウィーツ選びは止まらない」は今年1月、東京オペラシティのB→Cシリーズで初演した委嘱作品で、スウィーツを前にした揺れる乙女心をコミカルに表現した曲で、大反響をいただき、再びプログラムに入れました。
お客様へのメッセージをお願いします。
今回のリサイタルでは、まだ聴いたことのない作品もあるかもしれませんが、「こんなに素晴らしい曲があるんだ」と、発見と感動を両方感じていただけたら嬉しいです。また、今後は、高度なテクニックを身に付けていくだけでなく、たとえお客様が歌詞の内容がわからなくても、こういうことが言いたいんだなとか、情景が思い浮かぶとか、何か「お客さまの心に残る歌」を歌えるような歌手になりたいです。
自らを堅実で完璧主義と称していますが、とても明るく大らかで、笑いが絶えない臼木さん。実はかなりの学究肌で、現在芸大博士課程に在学中、モーツァルトに多大な影響を与えたヨーゼフ・ハイドンと弟ミヒャエル・ハイドンを研究中とのこと。並々ならぬ情熱と意欲、リサイタルが楽しみです。
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