インタビュー


この世に生まれ生まイコール
この世に生まれた=音楽人生


ソプラノ 中嶋彰子

シドニーで音楽教育を受け、ウィーンのフォルクスオーパーの花形歌手として国際的に活躍を続ける中嶋彰子さんとは、メールでのインタビューになりました。

音楽を始められたきっかけを教えてください。

北海道の大自然に生まれ幼い頃を過ごしたのが、何よりも私の芸術的感度を育てた基盤です。自然の不思議さ、偉大さ、厳しさ、優しさそして恐ろしさ…そんな全てが音楽として伝わっているような気がしました。ワンパクでお友達は男の子ばかり、いつも外が真っ暗になるまで家に帰らず遊んでいました。ふと見る湖に反射する真っ赤な夕焼けに感動して太陽が落ちるまで見とれてたり、月の光に銀に輝く雪の結晶があまり不思議で、寒い夜空の中一生懸命スケッチしたりなどの思い出が沢山あります。

それに加えて父が音楽好きであったこと。暇があれば音を鳴らしていて(声楽、ピアノ、ヴァイオリンやサクソフォン)、音楽鑑賞よりも実際音楽は自分で楽譜を読んで現実化するものと思っていました。「音楽を始めたきっかけ」とは、あまりに私の人生の中に自然に起こったことなので、この世に生まれた=音楽人生といっても良いでしょうか。

ピアノは一般家庭と同じく幼い頃から怒られながら適当にやっていました。役者っぽいところは昔からあって、でもとても内気だったので、他人の前では引っ込み思案でした。自分の中にあった漫才師のような「お笑い」はあくまでも家族内で好き放題やっていたようです。歌は当然のように存在していました。

15歳で移ったシドニーでの音楽教育について伺えますか? どうして歌だったのでしょうか。


シドニーでの音楽教育は私にとってプロ意識を高めるチャンスにもなりましたし、何よりも東洋から西洋文化の壁を越えた場所です。自己表現、西洋的人間関係維持、社会的責任感などが身につきました。

音楽の一般教育は大変低いです。ですが「出る杭は打たれる」からは反対の教育方針のオーストラリアでは、やりたい子は何でもとことんやるのが当たり前でした。高校は名門女子高でしたが、特殊な学校ではありませんでした。美しい教会があって、私の大好きだった音楽の先生は、チャーミングなおじいさん。色々な事を教えてくださり、素晴らしいオルガニストでした。私はしょっちゅうその先生のオルガン伴奏でソロを歌わせてもらい、宗教音楽の素晴らしさを習いました。同時に音大にも通うようになり、新たに発声、呼吸法などの技術を勉強し始めました。

どうして歌?…家では父が冗談で私を「歌姫」とたまに呼んでいました。読書をするように、歌は生活の一部ですから、どうして歌?と疑うことは私にとってないわけです。


プロのオペラ歌手になろうと思われたのはいつ頃でしょうか?

中学校2年生の時。学校の音楽祭でソロを歌った時です。曲は「野ばら」。学校中が静まり返って私のからだから出る音楽を聴いている、その満足感がインパクトでした。その後はその一瞬に得た「魂の遊び」を求めて常にステージに立っています。

今回のプログラムについて、意図するところ、聴きどころを教えてください。

羊飼い(の娘)=パストレッラは、ヨーロッパでは古代ギリシャから神話や詩に出てくる人物であり、牧歌的なおおらかなイメージがあり、宗教的シンボルでもあります。作曲家は沢山の曲をパストレッラのテーマで書いていますが、ロッシーニ『アルプスの羊飼いの娘』は、アルプスの特殊な歌い方"ヨーデル"に惹かれたロッシーニが書いた歌の1つで、ユーモアたっぷりのロッシーニらしくチャーミングな歌です。ニールセン『イタリアの羊飼い』は彼らしいユーモアが、バロック形式でありながら大変高度で難しいハーモニーとの調和の中で表現されます。 メサジェのワルツはパリで発掘した歌曲なのですが、出版社に連絡した時は、「そんな歌があるんですか?」とまで言われ、古本屋で買い求めた薄っぺらい楽譜からエディティング番号を読み取って伝えたことがあります。結局、世界初録音となりました。『軽やかな翼があったなら』とフレンチならではのデリケートな美しい曲です。 特に熱を入れているのは私の2枚目のCDにも録音したニコライ作曲のオペラ「流刑者の帰国」より『聖なる炎』です。これも世界新録音なのですが、今回のピアニストである私のパートナー、二ルス・ムースが長年かかって調べた掘り出し物です。ニコライといえば「ウィンザーの陽気な女房」が直ぐに頭に浮かぶと思いますが、興味深いことに、ニコライはウィーン・フィルの創設者でもあります。その彼がスカラ座のために書いたオペラ「Il Proscritto(追放者)」が、後にウィーンの観衆向けに書き直され、ドイツ語で新たに生まれ変わったのがこのオペラです。ドイツ語ですが、元はスカラ座に書かれたベルカントスタイルのこのオペラは、ドニゼッティやウェーバーを彷彿させるリリックな美しい音楽です。特にこの曲は日本初演として今回のリサイタルでご紹介したく、プログラムに入れました。