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Interview@philiahall


フルート、ヴィオラ、ハープがつむぐ、ひとつの夢。
ハープ:吉野直子  
ヴィオラ:今井信子
2011年12月17日(土) 18:00
イョラン・セルシェル

 

ハープの吉野直子とともに迎えるフィリアホールの12月。1993年のオープンの年から、ソロやデュオ、合唱、協奏曲とさまざまな形で皆さまにお届けしてきて、はや19年。今年は、オランダのフルートの奇才ジャック・ズーンと、世界のヴィオラの重鎮・今井信子とともに夢のトリオをお送りします。公演を前に、吉野さんと今井さんにメールでお話を伺いました。

2009年ミラノでの音楽祭「ミラノ・ムジカ」でこのトリオで演奏されて、それが素晴らしかったので、日本でもぜひ!と、吉野さんから伺ったのが今回の演奏会のきっかけでした。お互いの魅力をお聞かせください。

吉野:ヴィオラの今井信子さんと初めて一緒に弾かせていただいたのは、私がまだ10代の頃でした。それからずいぶん時間が経ちましたが、今井さんの変わらない素晴らしさ、音楽への探究心にはいつも心を動かされます。ズーンさんとはルツェルン祝祭管弦楽団でオーケストラのメンバーとして初めてお会いして、その後、室内楽でもご一緒する機会がありました。ズーンさんの奏でるフルートは限りなく自然で生き生きとしていて、まるで歌を聴いているような感じです。ヴィオラとフルートとハープは特性の異なる楽器ですが、この3 人で弾くと、お互い刺激し合い、それぞれ自由でソリスティックでいながらも全体で一つの音楽を作り上げていくことができます。

今井:ズーンさんはまさに楽器を超えて歌手のようです。例えば美空ひばりが凄かったのは、彼女の歌が演歌の世界を超えて人の心に訴えかけるものを持っていたからでしょう。彼のカリスマ性も、隣で一緒に弾いていてビリビリと伝わってきます。そしていつも新鮮で挑発的。彼と弾けることは最高の贅沢です。吉野さんが、3人で共演したミラノでの素晴らしい思い出をフィリアホールで再び実現してくださったことに深く感謝しています。吉野さんは昔からのお付き合いで、まるで家族のよう。天才少女から大人に成長する過程は人それぞれ違いますが、彼女は持って生まれたエレガンスと美徳を保ちながら大演奏家に成長されました。自分を発見する時期は、大変な葛藤があったに違いありませんが、そんなことも大きな問題にしないところが彼女らしいですね。彼女のハープの音色は清く澄んでいます。この2人とフィリアホールで演奏できる極上の時間をとても楽しみにしています。

今回は、ヘンデル、現代のグバイドゥーリナ、武満徹、そして、武満にも大きく影響を与えたドビュッシーのトリオ作品を演奏されます。(武満徹の作品は1992年、今井信子と吉野直子、フルートのオーレル・ニコレによって初演。)

吉野:幕開けのヘンデルはバロックのトリオ・ソナタで、ハープは通奏低音の役目です。グバイドゥーリナは、ハープでは弦の間に紙をはさんで弾いたり、チューニング・キーの金属部分を使った特殊なグリッサンド奏法を使ったりして、このトリオから新しい響きを生み出している作品で、大きな宇宙を漂うような不思議な感覚を味わっていただけると思います。武満さんのトリオは、ドビュッシーからインスピレーションを得て生まれた作品。ドビュッシーよりもさらに繊細な雰囲気で、自然の音や風に乗って聞こえるカリヨン(鐘)の音など、武満さん独自の音世界が広がります。初演させていただいて以来、何度も演奏していますが、共演者やホールの響きなどによって微妙に色合いが変化していきます。ドビュッシーはこの編成のいわゆる「元祖」です。3つの楽器すべてが無理なく響いて本当に完成度が高く、弾けば弾くほど味わいがあり、あらためてドビュッシーの偉大さを実感させてくれる貴重なレパートリーです。

今井:ドビュッシーと武満さんのこのトリオの作品は、フルート、ヴィオラとハープの奏者にとって宝物のような作品です。この3つの楽器はピアノ、ヴァイオリン、声楽と比べるとレパートリーが決して多いとは言えませんが、この2つの曲はどこの音楽祭でも取り上げられている上、プログラムの質を高めてくれます。誰がこの楽器のコンビネーションを想像したでしょうか。そう思うとドビュッシーは天才ですし、彼を師と崇めていた武満さんの洞察力の鋭さに感動してしまいます。ドビュッシーのトリオの方が力強い音楽に聞こえますが、私は両方の曲からその2人の内面的な強さと何かしら熱いものを感じます。そして夢の世界に迎えられているような気がするのです。

お二人の活動の近況を教えてください。また、今井さんは92年から毎年ヴィオラの祭典"ヴィオラ・スペース"を主宰され、広く世界のヴィオラ界を牽引されてきました。今後の展望をお聞かせいただけますか。

吉野:今年もまた数多くの素晴らしい共演者に恵まれました。中でも特に印象深いのは、クラリネットのポール・メイエさんとの初共演、そして2年ぶりのチェロのクレメンス・ハーゲンさんとの共演でした。お二人とも楽器の枠を超えて音楽を奏でる名手で、とても刺激的で幸せな時間でした。旅では、音楽祭に参加するために初めて訪れた、アメリカ・ワイオミング州のグランド・ティトン国立公園のあまりにも雄大な景色が心に残っています。自然の素晴らしさと普遍性を肌で感じ、アメリカという国の多様さと大きさも実感できました。来年2012年の前半は、1月には香港、4月にはベトナムでコンサートがあり、アジアの年になりそうです。

今井:ヴィオラスペースがもう20年。普通ではまず考えられないことです。でもヴァイオリン、ピアノではないからできたとも言えます。ヴィオラをする人は同調性が強いのでしょうか?室内楽もヴァイオリン、チェロがいてもヴィオラ無しでは成り立たないということを、最近色々な国を訪れてつくづく思い知らされています。先日もスペインにヴィオラのマスター・クラスをしに行き、マドリード地域のプロのヴィオラ奏者とブランデンブルク協奏曲、ブラームスの弦楽六重奏曲を演奏してきました。室内楽に関して、皆かなり消極的なのですが、私が一押しすればできるのです。室内楽が盛んにならなければ音楽も育たないので、これからもっと弦楽器全体を含むような室内楽の振興を考えていきたいです。

今年は大変な年でした。まだまだ厳しい状況に置かれた方もたくさんいらっしゃいますが、フィリアホールとしては、一年の終わりにこうした素晴らしい公演を開催できることにあらためて喜びを感じます。お客様にメッセージをいただけますでしょうか。

吉野:震災の後は「なんと音楽家は無力なんだろう」と気分が沈んだりしましたが、結局はハープを弾くことで自分自身も少しずつ元気になっていきました。日々無事に、そして平和に暮らせることにあらためて感謝をしながら、これからもより良い音楽づくりを目指していきたいと思います。今回のプログラムでは、私たち3人の音楽の"会話"を一緒に楽しんでいただき、音楽のもつ力を感じていただければ幸いです。

今井:ときどきフィリアホールに戻って演奏できることを本当に光栄に思っています。音楽家のしなければならないことは終わりがないですね。音楽のための音楽は、最終的に私たち皆のための音楽に帰っていくのではないでしょうか?