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Interview@philiahall


天命を知る‘ピアノの詩人’
ピアノ:ダン・タイ・ソン

2012年6月29日(金) 19:00

 

1980年ショパン国際コンクールでアジア人として初めて優勝。持ち前の極めて美しい音色と豊かな音楽性で多くのファンを獲得し、世界のトップピアニストとして第一線を駆けてきたダン・タイ・ソン。その音楽は、年齢を重ねることでより清く温かく、喜びと哀しみを全て包み込むようにまろやかに醸成し、ますます深い輝きを放っていまなお世界中の聴き手を魅了しています。ドビュッシー・イヤーの今年、フィリアホール初登場となる待望の6月公演を前に、ダン・タイ・ソン本人にメールでお話を伺いました。

お母様もピアニストでいらしたとのこと。プロのピアニストになろうと思ったのはいつ頃のことでしょうか。

1965年にハノイ音楽学校に入学した時点で決まっていました。自分が向いているかどうかにかかわらずです。当時のベトナムの社会制度の下では、個人のことも政府が決めたのです。

ベトナム戦争中は防空壕の中で紙の鍵盤で練習したというエピソードが有名です。モスクワ音楽院留学中も過酷な練習環境だったとか。さまざまな困難を乗り越えて、1980年アジア人として初めてショパンコンクールの栄冠を勝ち取りました。この質問には辟易かと思いますが…、今振り返るとどうお感じになりますか?

それは私がまだまだ若かった、1975年からショパン・コンクールで優勝した80年までの、わずか5年間(主にモスクワでの3年間)のことです。長い人生においてのほんのわずかな時間です。この成功をいま説明できるとすれば、“音楽が好き”だったからとしか言えません。

ダン・タイ・ソン

ベトナムからロシアに留学後、日本へ、そして現在はカナダにお住まいです。世界中を飛びまわる中、印象に残っている場所などはありますか?

どんな場所や国も、私たちに何らかの印象を与えてくれます。そこにどれだけのものを見出して感じるかは全て自分次第です。

今回のプログラムのメインは生誕150年のドビュッシー、そしてシューマンとショパンです。聴きどころを教えてください。

ドビュッシーは、さまざまなキャラクターの曲を演奏します。それぞれにつけられたタイトルが想像をかきたてます。「版画」の“塔”は東洋の香り、“グラナダの夕べ”はスペインの情熱と官能、“雨の庭”はぽつぽつと雨粒が降る情景、「映像第1集」の“水に映る影”は水の清らかな瞑想、“運動”は視覚的な鮮やかさなど、タイトルが象徴する具体的なイメージと肉感的な喜びがあふれています。シューマンは、ドビュッシーとはまた一味違った想像力の喚起があります。夢想の世界を通して、人間の深いところにある魂や感情に触れるのです。まさにロマン派です。ショパンについてはもう何も言うまでもなく、皆さんが聴きたい作曲家でしょう!

さまざまな経験を積み重ねられて、今のダン・タイ・ソンさんが考える“ピアノの魅力”とは何でしょうか。

50代になった今も、ピアノが宿す“不可思議な魅力”を模索中です。“美しく”演奏することはもはやそれほど難しいことではありませんが、いかに“示唆”できるかを大切にしています。

日本でも学生のレッスンをされていらっしゃいますが、教えることはいかがでしょうか。

教師は医者と同じです。良い医者は、ありとあらゆる病気を正確に診断し、適切に治療することができます。

音楽家として生きていくのは、今も昔も変わらずとても大変なことかと思います。音楽を勉強する若者に何かひとつアドバイスをいただけるとしたら、どんなことでしょうか。

音楽を職業にすることにこだわらず、別の道を選んで、音楽と付き合っていくことも、生き方の1つです。

東急ハンズがお好きとか。何か演奏以外でご趣味はありますか?

私にとって演奏は夢をみている時間です。一方、東急ハンズなどでの買い物は、現実的な感覚でいるときの楽しみです。膨大な商品を見ながら、あれこれ迷うのを楽しんでいます。

お客様に向けてメッセージを一言、お願いいたします。

今回のプログラムは色彩豊かで躍動感に満ちあふれたものです。現実をつかの間忘れて、たっぷりと音楽を楽しみましょう!