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Interview@philiahall


まだ見ぬ世界へ、音楽の喜びを届けたい。
ピアノ:福間洸太朗

2013年3月5日(火) 11:30

福間洸太朗

 

輝かしいテクニックと聡明な音楽の語り口で聴き手を魅了する、ベルリン在住の新鋭ピアニスト福間洸太朗。3月5日の“らん・らん・ランチにいい音楽”の公演へ向けて、さらなる飛躍を予感させるピアノ新時代の旗手にメールでインタビューをお願いしました。

3月の来日前後も、ドイツ、スイス、フランス、アメリカと、各地で演奏スケジュールがびっしりです。ベルリンでの生活はいかがですか?

パリでの4年間を経て、2005年の夏からベルリンに住んでいます。物価が安く、家が広くて住みやすいのも嬉しいですが、人々が悲劇的な過去から学んで、どんな人種や文化を持った人も受け入れ、皆が幸せに共存できる社会を作ろうというオープンな考えをもっている点が素晴らしく、この街がとても気に入っています。若いアーティストも多く集まっていて、出会いや交流の場がたくさんあるので刺激が多く、ベルリンに帰ってくると、ほっとするのと同時にもっと頑張ろうという気持ちにもなれます。でも、実際は演奏のための移動が多くて、1年の半分もベルリンにはいないのですが・・。2012年はイスラエルや中国のほか、ジュネーヴでのデビューや日本でも大きなツアーがあり、それぞれの地でハプニングも含め、貴重な経験をさせていただき、新しい発見や考えさせられることがありました。詳しくは僕のブログをご覧いただけると幸いです。
WEBサイト:http://kotarofukumajp.blogspot.jp/

最近はご自身のお名前の「洸」にちなんだ「水の光」というコンセプトでプログラムを組んでいらっしゃいます。

海外生活をするようになって、外国の方から名前の由来や意味を聞かれることが多くなり、「洸」の字の持つイメージについてよく考えるようになりました。水と光は、生物にとって必要不可欠なもので、僕たち人間も、毎日当たり前のように消費していますが、それらが合わさった「水の光」は、幻想的な美しさを放ち、見る者の心を癒し、温和な感動を与えてくれるものだと思います。多くの作曲家が音楽でその印象を表現しているので、これは人種・国・文化を問わず、多くの人に通じる感覚だと確信したのです。3.11の大震災で全世界が水の怖さを思い知ることになりましたが、このテーマには「水」の恩恵に対する感謝と平和の祈りも込められています。

フィリアホールでのプログラムも「水の光」に基づくものです。聴きどころをお聞かせください。

もっとマニアックなプログラミングも考えられたのですが(笑)、今回はランチタイムということで、聴きなじみのある曲を集めました。テーマは昨秋のツアーと同じ「水の光」ですが、曲目はずいぶん変えています。まず、ドビュッシーは、音楽で水の動きや色を感じさせる作曲家の代表格ですから、4つの作品の持つ異なる性格やスケールの幻想世界を描けたら良いなと思っています。ショパンは、どの曲もタイトルに「水」を直接連想させるものはありませんが、僕の持つイメージでは水が関連しているので、実験的にプログラムに入れました。バラードの2曲に関しては、ショパンの同胞詩人のミツケヴィッチによる湖、睡蓮、水の精などの詩がインスピレーションの基となっています。

そもそもピアノをはじめたきっかけは何でしょうか。

姉が二人いるのですが、僕が生まれた年に上の姉がピアノを習い始めて、物心ついた頃にはグランドピアノが家にある状況でした。巨大な黒い物体とそこから出るきれいな音に興味津々で、3歳の終わりごろに「自分も習いたい」と母に言ったのですが、「5歳になるまでダメ」とあっさり却下されて、それから1年余りは陰でこっそりピアノを触ったり、姉たちにドレミを教わって遊んだりしていました。ようやくやってきた5歳の誕生日に「今日から習えるの?」と早速聞くと母はかなり驚いたようで、翌週から晴れて先生のレッスンを受けることとなりました。

プロのピアニストになろうと決めたのはいつごろでしょうか。

中学3年生の6月、アメリカのソルトレイクシティでのJr.ジーナ・バックアワー国際コンクールを受けたのがきっかけです。初めての国際コンクールで、しかも他の参加者たちが自分に比べてすごい大曲を弾きまくる中、僕はとにかく国際コンクールの舞台で弾ける喜びを表現しようと心がけた結果、何とファイナルまで残り、まさかの6位をいただきました。審査員のお一人だったローガン・スケルトン先生(ミシガン大学教授)から「君のピュアな音楽性に感動した。頑張れば将来きっと素晴らしい音楽家になれますよ。」と激励されたことにとても感激して、それから本格的に音楽の勉強に取り組むようになりました。

ピアニストの理想像はどういったものでしょうか。憧れのピアニストはいましたか?

曲の性格やスタイルに応じて、パッと変身する役者あるいはカメレオンのようなピアニスト、また一音鳴っただけで、幻想世界が広がり、聴く人の心を鷲掴みできるようなピアニストを目指しています。今憧れているピアニストはアルド・チッコリーニさんですが、小さい頃CDで聴いたマレイ・ペライアさんの音の美しさに深く感動しました。

今後取り組みたい作曲家・プロジェクトはありますか?将来のビジョンをお聞かせください。

プロジェクトのアイデアはたくさんありますが、詳細はまだ秘密です(笑)。2013年秋はNYデビュー10周年になるので、大きなテーマを取り上げます。「水」にも関連があり、自分の過去、現在、未来を見据えたテーマです。また、今度の6月にプロコフィエフなどロシアもののコンチェルトを弾くので、ロシア語やロシア文化なども勉強しています。夢は大きいものから小さいものまでいろいろありますが、行ったことのない国や土地に行って弾くことを常に夢見ています。今一番行ってみたい国は、日本のちょうど裏側のアルゼンチンです。年齢を重ねても、チッコリーニさんのように常に若い精神を持ち、純粋な幸せと感動を提供できる音楽家になれたらと思います。

photo©T. Shimmura

今までに訪れて、印象に残っている国はありますか?

これまで3回演奏旅行で行った南アフリカ共和国は、北半球とはまた違う光や色を放つ大自然と、芸術的センスが豊かなスピリチュアルな人々が溢れ、とても感動しました。政治・経済や治安の問題もはらんでいますが、いろいろな可能性を秘めているので、いつも気にかけて応援しています。また、美しい「水の光」を見た場所として心に残っているのは、フロリダ州サニベル島、南アフリカのケープタウン、カリブ海のプエルトリコです。

普段のリラックス方法はありますか?

やはり美しい「水の光」を見ることが一番です!それができないときの気分転換は、料理や筋トレ、フィギュアスケート鑑賞、睡眠、マッサージなどです。

ピアノ以外に何かご趣味はありますか?

フィギュアスケートはかなりマニアです。地上でジャンプの練習をしたりしています(笑)。あとは語学も好きで、演奏旅行中も訪れる国の言語を学んだりしています。覚えが早い代わりに忘れるのも早いですが(笑)。

昨年9月の“徹子の部屋”の出演は大反響を呼びました。きっかけは何だったのでしょうか。

2011年11月に日本センチュリー交響楽団と大阪で共演させていただき、そのときに聴きにいらしていた音楽関係者が僕の演奏を気に入ってくださり、長年のお付き合いがある黒柳徹子さんにご紹介くださいました。お食事をご一緒させていただき、その数ヶ月後に番組出演が決まりました。自分でも信じられませんでした。

ピアノ愛好家たちへ、上達のアドバイスを一言お願いします。

楽器も人間のように繊細ですし、精神を持っていると僕は信じていますので、まずはピアノと友達になり、良いパートナーシップを取ることです。難しいパッセージなどは、楽に弾けるように細分化したりテンポを落として練習するなどして、「弾けない」という意識を植えつけないことが大切だと思います。常にピアノが弾ける喜び、幸せを感じて弾いてみてください。