チケットのご予約
back

Interview@philiahall


軽やかなウィーンの風。音楽に深く感謝して。
弦楽四重奏:クァルテット・アルモニコ

2011年6月25日(土)18:00
クァルテット・アルモニコ

 

ウィーンの香りを身にまとい、女性4人がたおやかに織りなす弦の響き。すっかり耳なじみのある曲でも、煌めく感性としなやかな意欲をもって、そこかしこに新たな息吹を感じさせてくれるクァルテット・アルモニコが、6/25(土)の女神との出逢いシリーズに登場します。芸大の室内楽の授業をきっかけに結成して以来、その魅力にのめりこみ、シューベルト国際コンクール優勝、ロンドン国際コンクール第2位、ハイドン国際室内楽コンクール最高位など、立て続けに世界の注目を浴びてからはや数年。クァルテットとしても女性としてもますます成熟しつつあるいま、メンバーに改めてお話を伺いました。

ソロやオーケストラではない、弦楽四重奏ならではの魅力とは何でしょうか。

弦楽四重奏は、ソプラノ、アルト、テノール、バスという最もシンプルな形で、これ以上でもこれ以下でもない完全な形です。作曲家にとっては本質が浮き彫りになる試金石ですが、ベートーヴェンやショスタコーヴィチなど弦楽四重奏を好んだ作曲家は、そこに自分の最も書きたいことを、書きたいように書けたのではないでしょうか。弦楽四重奏の作品は名作、傑作の宝庫です!! その素晴らしい作品に向き合い、4人で心を1つにして音楽を創り上げていく喜び、4人の音色が溶け合ったときの響きの素晴らしさ、表現できる世界の奥深さは計り知れません。

クァルテット・アルモニコ

4人での練習はどのようにされていらっしゃいますか。

基本的に週に1、2回のペースで練習をしています。それぞれに異なる生活の中で練習時間を合わせることは大変難しいのですが、クァルテットを優先的に考えて、スケジュールを組むようにしています。

ウィーンやハンガリーでの留学生活で印象に残っていることはありますか。
(2006年からメンバーに加わったチェロの富田牧子さんはハンガリーに留学されていた)

菅谷:すべての季節を肌で感じて、作曲家たちがインスピレーションを受けたであろうウィーンの風景(風の音や湖の水面の光り方…)を体験できたのは大きな宝物です。モーツァルトを弾くときにはオペラの場面が、ブラームスでは秋の黄金に輝く葉、ブルックナーではオーストリアの田舎の壮大な麦畑などが、自然に浮かぶようになりました。空気の乾燥している向こうでは楽器が「喜んでいる」感じで、弓を軽く触れるだけで楽器が鳴ってくれて、今でも、石造りの高い天井での響きを思い出しながら弾いています。

生田:恩師ヨハネス・マイスル氏とじっくりとウィーンもの(ハイドンから新ウィーン楽派まで)のクァルテットを勉強できたことは素晴らしいことでした。同時に、自分たちにもヨーロッパ各国での演奏の場が多くあったことも大きな体験でした。また、ウィーンには世界中から素晴らしい音楽家たちが集まってくるので、数多くの演奏やオペラに接することができたのは大きな糧となりました。

阪本:ウィーンという土地、やわらかい響きのドイツ語、人々の生活すべてが音楽とリンクしていることを肌で感じました。演奏会では、「誰がどう演奏している」というより作曲家の「作品」を演奏者と聴衆が共有している感覚でしたね。ウィーン・フィル、コンセルトヘボウなど、素晴らしいオーケストラのほか、ピアノやリートの演奏会、とくにオペラは300円ほどで観ることができました。作曲家にとってはオペラも交響曲も弦楽四重奏曲も根底は同じですから、音から得るイマジネーションが広がったように思います。

富田:初めの数ヶ月は音楽に集中できる恵まれた環境、生活習慣の違いや不便ささえも新鮮に感じました。そのあとじわじわとやってきたのは、どうしても入りこめない伝統。先生をはじめ周りの音楽家は大抵、何代にも渡る音楽一家。歴史を持つ彼ら、民俗音楽やロマの人々は、血の中にリズムや音を持っている。でも、その空気の中にいて感じたことが、より深い部分での音楽の理解につながったのだと思います。

今回のプログラムの聴きどころを教えてください。長く取り組むハイドン、ベートーヴェンに、いつも美しい響きを聴かせていただける新ウィーン楽派(に近い)ツェムリンスキーです。

ハイドンは、いま東京芸大とウィーン国立音大の学生・卒業生のクァルテットとの共同プロジェクトで、弦楽四重奏全曲を録音していて、来年度に終える予定です。ハイドンの面白さは、何といってもユーモアです。朗らかでチャーミング。また、緩徐楽章にみられるような美しい祈りの音楽、たくさんの劇場音楽も作曲しただけあって、情景がはっきり浮かぶような音楽など、初期・中期・後期それぞれに、あらゆる魅力がつまっています。結成当初からハイドンが大好きで、シンプルでいながら、意外な和声進行や、ハイドン特有のユーモア(びっくりさせたり、何度も同じことを繰り返したり…)にいつも楽しませてもらっています。そのせいか、ピアニストでもクァルテットでも指揮者でも、演奏を聴けばその人がハイドンフリークかどうかはすぐにわかってしまうんです!

ツェムリンスキーの「弦楽四重奏曲 第4番」は彼の晩年の作品で、交互に緩急の楽章で構成されています。“新ウィーン楽派周辺の時代の音楽”という位置づけで、12音技法ではなくまだ調性はありますが、やはり、クリムト、シーレ、カンディンスキーなどを思わせるような、世紀末特有の雰囲気や世界感があります。ツェムリンスキーも初期はブラームスを思わせるような作品だったのですが、晩年は無調に近いものになってくるんです。東洋的な和声や、ジャズのようなリズムなどもあり、6楽章それぞれにストーリー性が感じられ、演奏していて情景が次々に浮かぶ魅力のある作品です。新ウィーン楽派の作品は、下手をすると無機質な現代音楽という印象をもたれてしまう可能性がありますが、根底にある精神はロマン派であり、それまでの時代になかった美しさの表現を追求しているのです。一見不協和音のように聞こえる和音も、一音ずつ取り出してきれいな音程を追求していくと、びっくりするような美しい和音の響きになるんです。新ウィーン楽派の曲については、実際ウィーンに住んで、ユーゲントシュティール(=アール・ヌーヴォー)の絵画や建築、家具を多く目にする機会が増えてから、素直にそれを美しいと思えるようになりました。

ベートーヴェンは、往年のクァルテット奏者たちに「ベートーヴェンの後期作品を演奏するためにクァルテットに一生を捧げた」と言わしめるほど、別格な存在です。一生をかけて「お近づき」になりたい人ですね。どの作曲家の作品も試行錯誤しながら時間はかかりますが、ハイドンは常に楽しみながら近づいていけるとすれば、ベートーヴェンはエネルギーの方向性が違い、じわじわと近づいていけるような作曲家。でも、やっただけのものが必ず返ってくるという確かな感覚があります。

演奏以外で、何かご趣味やマイブームはありますか。

阪本:おいしいお茶。オリーブオイル。その時の気分にあう入浴剤。

生田:演奏活動以外では今は2才の息子と過ごす時間を大切にしています。息子が鉄道好きなので、家には鉄道に関する本やおもちゃが増えて、前より少しだけ詳しくなったかもしれません。

東日本大震災後、改めて音楽の力が問われています。音楽とはどのような存在でしょうか。

菅谷:あの震災後はしばらく楽器を弾ける精神状態ではなく、何日か経ってバッハを弾きはじめると、そのうち、不思議と自分の内側へエネルギーが集まってくるのを感じ、心は浄化されたような落ち着きを取り戻しました。音楽は、勇気や力を与えると同時に、平穏や安らぎも与えるものだということを強く感じました。

生田:音楽には計り知れないパワーがあって、そして、同時に心を豊かにしてくれる。演奏家として活動している私にとって、音楽と常に密に接することができて幸せに思います。

阪本:もし明日世の中が終わるとしたら、おいしい食べ物でもなく、おしゃれな洋服でもなく、上質な音楽を聴きたいと思います。月日を重ね、いろいろな事がわかってくればくるほど、「音楽」は必要なものだと感じるようになりました。宗教的な信仰ではなく、音楽の中で神様を感じることができるのです。

富田:大災害が起きる度に、食べるものもない人のために「音楽」はいったいなんの役に立つのか、いつも考えます。10数年前に有珠山噴火の避難所でコンサートをさせていただいたときに強く感じたのは、演奏している私の方が「与えられている」という気持ち、そして感謝でした。これからも、演奏会でお客様とのコミュニケーションを大事にしたいと思います。

クァルテット・アルモニコとしてのこれからの夢を教えてください。

ハイドンは結成当初からずっと弾き続けてきましたので、できるかどうかわからないけれど(何しろ数が多すぎて!)、全曲を目指して演奏していきたいと思っています。また、年齢を重ねて、いつかベートーヴェンの全曲チクルスなどもできたら…。一方で、それぞれひとりの女性としての人生も大切にしていきたいと思いますし、その延長線上として、子ども連れでも聴きに来られるような、子どもが小さいうちからいい音楽に触れられるようなコンサートも積極的に取り組んでいきたいと思っています。