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Interview@philiahall


「シューマンの春」に向けて
ARCUS(アルクス)ヴァイオリン 松田拓之

2012年3月24日(土)15:00
インゴルフ・ヴンダー

 

NHK交響楽団、群馬交響楽団、新日本フィル、東京交響楽団、東京都交響楽団、広島交響楽団…など、数々のオーケストラで活躍する若手奏者たちが「自分たちのやりたいことをやる」との強い意思で集まった、指揮者なしのオーケストラARCUS(アルクス)。2005年にフィリアホールデビュー以来、毎回魅力あるプログラムに取り組んできた彼らが、第6回目となる3月24日の演奏会では「シューマンの春」と題して、オール・シューマン・プログラムを聴かせます。創立メンバーでアルクスの大黒柱でもある、N響ヴァイオリン奏者の松田拓之さんにお話を伺いました。

今回もアルクスらしさ満載のプログラムです。当初震災復興支援という案もありましたが、最終的に「シューマンの春」と決まりました。

2012年3月は東日本大震災からちょうど1年ということで、今回企画を決めるにあたってこのコンサートを被災者のためのチャリティーコンサートにするかどうかメンバーで激論を交わしました。しかしチャリティーを集客の道具にはしたくなかったですし、それよりも私たち演奏者はじめ、お客様にも元気になれる企画を考えたほうが良いのではないか、ということで今回のプログラムに決定しました。シューマンがクララの父親に猛反対されながらも、やっとの思いでクララと結婚できたのが1840年。その後数年は交響曲、室内楽と充実の作品群を生み出していきます。今回とりあげる"交響曲第1番「春」""序曲、スケルツォとフィナーレ"の初稿が1841年、"弦楽四重奏曲第2番"の作曲は1842年。結婚直後のまさに人生の春を迎えたシューマンのパワー、夢と希望に満ちあふれた傑作ばかりです。

交響曲と弦楽四重奏を一度に聴けてしまう斬新さ!シューマンの弦楽四重奏曲は3曲とも素晴らしいのにあまり演奏されないですね。演奏するのが難しいのでしょうか?

たしかに演奏は難しいと思います。シューマンの曲はどの曲もそうですが拍子、リズムが複雑で合わせるのが大変です。もちろん技巧的にも…。ですから、演奏会でやるには奏者側にそれなりの決意が必要かもしれません。この第2番の弦楽四重奏曲を知らない方も多いかもしれませんが、とても素晴らしい曲ですし、明るくてとても活力に満ちあふれていて今回の企画にはピッタリの曲と思って選びました。ヴァイオリン田野倉雅秋、白井篤、ヴィオラ佐々木亮、チェロ宮坂拡志の各メンバーが演奏しますが、彼らにはオーケストラには乗らずに弦楽四重奏に専念してもらうので、私自身も聴けることをとても楽しみにしています。あまり演奏されないけれど素晴らしい名曲はまだまだ山ほどありますが、そういった曲を演奏し、たくさんのお客様に知っていただくことはとても大事で、私たちの使命でもあると思っています。

交響曲第1番「春」 は初稿版と改訂版があるのですよね。シューマンの交響曲の最大の魅力は何でしょうか。

今回は改訂版を使用する予定です。初稿版との大きな違いに冒頭のファンファーレの音が3度低いということがありますが、部分的に初稿版の音、アーティキュレーション、強弱記号を採用したりするのも面白いかもしれませんね。シューマンはオーケストレーションが下手だとよく言われています。確かにメロディーに対して伴奏バランスが悪かったり、冒頭のファンファーレの初稿版で記されたホルンの音は当時の楽器では出ない音だったので変更されたというエピソードからも分かるように、楽器のことを十分理解していなかったのではという疑問はどうしてもありますが、シューマンの書き残した音には独特の響きがあるように思います。例えば今回はホルン4本、トロンボーン3本とアルクスにしては少し大きな編成です。しかもあまり休みがなく金管楽器奏者にとっては非常にハードです。それだけ重厚なサウンドだということなのですが、それはやはりシューマンならではの、彼が目指したサウンドです。このような少し編成も大きく重心の低いオーケストラをどうドライブしていけるか、今からとても楽しみです。

指揮者なしのオーケストラの魅力は何でしょうか。並外れたテクニックをお持ちのアルクスメンバーだからこそ自在に演奏可能と思いますが、例えばアマチュアが同じことをやろうとしたときにはどうすればよいのでしょうか。

指揮者がいないことの魅力は、やはり演奏者主体で音楽が展開されていく積極性にあると思います。反面非常に多くの困難が伴います。たとえばタイミングだけを合わせようとすると音楽は止まってしまいます。特に日本人は縦の線を合わせることに終始しがちですが、それだけでは音楽は展開していけないのです。どこに向かって音楽をするか、曲全体の中で今演奏しているところがどういう部分なのか、全員で理解する必要が生じます。人数が多くなると、みんなの持っている音楽をまとめるにはそれなりの時間も労力もかかりますが、それを乗り越えると、演奏者それぞれに積極性が生まれ、音楽に躍動感が増し、気持ちが集まったときの感動は非常に大きなものになります。練習の進め方、音楽のまとめ方はまだいい方法があるのではないかと常に試行錯誤しています。そうやっていくうちに生まれるメンバー同士のチームワーク、絆のようなものは音楽にいい影響を与えていると思います。アマチュアもプロも目指すところは同じはずです。

アルクスが2005年3月にフィリアホールでデビューして、もう7年です。

もう7年ですか!振り返るといろいろなことをやってきました。幼児むけのワークショップ、子供向けのプログラム、室内楽のコンサートなど、どれも興味深いものばかりです。メンバーも多少変わりましたが、当初のアルクスのコンセプトや音楽に対する情熱はずっと変わらず、メンバーでいろいろなアイデアを考えて、新しいこともどんどんやっていかなければならないなと思っています。他の演奏会と違って、メンバー自身がマネージメントをしなければならないので、チラシやプログラムの作成から、楽譜の準備、配布など結構大変な作業ですが、ひとつの演奏会を成功させるためにいつもいろいろな方々が支えてくださっているということを改めて実感しています。

まだまだやりたい企画・プログラム案をお持ちかと思います。今後の展望とお客様へのメッセージをお聞かせください。

企画の候補は無数にあります。特に「早熟な作曲家たち」やモーツァルトやベートーヴェンの交響曲シリーズは毎回候補に挙がりながらまだ実現していないので、今後必ずやることになると思います。アルクスのコンサートでは曲間のトークでわかりやすく作曲家や曲のことをご紹介します。クラシック音楽は難しいと感じていらっしゃる方に、ひとりでも多くその誤解を解いて、心から楽しんでいただきたいからです。フィリアホールは室内オーケストラにはぴったりの素晴らしいホールで、第1回の演奏会からたくさんのコンサートを開催して、毎回あたたかいお客様にお越しいただき、本当にありがたく感じています。これまでは神出鬼没的にコンサートを行っていましたが(笑)、今後は毎年春に開催する予定でいます。これからもぜひたくさんのお客様に聴きにいらしていただけたら嬉しいです。