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Interview@philiahall


才気煥発!
新たなるスター誕生。
ピアノ:インゴルフ・ヴンダー

2012年4月19日(木) 19:00
インゴルフ・ヴンダー

 

世界の俊英たちが集う新シリーズ「ただ一つの世界」がいよいよスタート。そのトップバッターとして、オーストリアのピアノの新鋭インゴルフ・ヴンダーが4月に登場します。多くの聴衆・関係者が“不当”として声をあげた、2010年のショパン国際ピアノ・コンクール第2位。取り巻く騒音をよそにいたって自然体のヴンダー本人に、日本での初リサイタルに向けてのメールインタビューをお願いしました。

堂々としたステージ・マナー、隅々まで行き届いた理知的な音楽、聴衆を虜にする圧倒的なテクニック。ヴンダーさんはプロのピアニストに必要な資質を全て持っているのでは?今回弾いていただくプログラムもそうした多彩さを味わえるプログラムです。

モーツァルトの「リンツ・ソナタ」(ピアノ・ソナタ第13番変ロ長調K.333)は無条件に大好きな曲です。この曲を聴けば、モーツァルトがいかに多面的な才能を持った作曲家であるかがよくわかります。モーツァルトの音楽は非常に「オペラ」的と私は感じますし、モーツァルトで感情を表現できることは大きな喜びです。リストとショパンは、互いに完全に異なるタイプの作曲家であり人間であるといえます。観客と多くの女性に愛された「魅せる」ピアニストであったフランツ・リストに対し、ショパンは人前で演奏することを非常に恐れ、内向的でしたが、だからこそ、この上なく深く人の心を揺さぶる音楽を生み出したのです。リストとショパンの両方をひとつのリサイタルで演奏することは常に挑戦ですが、とても興味深いことでもあります。リストの超絶技巧練習曲はショパンのエチュードと同じくらい重要な作品ですが、明らかにショパンより進歩していて、絵画的な美しさがあります。ショパンのピアノ・ソナタ第3番は、ロマン派の重要なピアノ・ソナタのひとつであり、ショパンが最も円熟した時期の作品です。この曲は冒頭から聴き手の心をとらえて放さず、人間のあらゆる感情を体験させてくれます。リサイタルの締めくくりはアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズで、典型的なショパンのポロネーズとポーランドの魂を聴くことができます。実に圧倒的な曲です。

4才からヴァイオリンを習われたとのこと。音楽的な家庭環境だったのでしょうか。

兄がすでに楽器を演奏していたので、音楽は常にまわりにありました。でも、プロの音楽家になるよう強いられたことは一度もなく、音楽家になりたいという熱意が自発的なものだったことはよかったと思います。ピアノを始めたのも遅かったのです。両親はプロの音楽家ではなく、小学校と中学校の教師ですが、音楽を愛しています。兄も私も結果的にプロの音楽家になりましたが、これは全く予想していなかったことです。

ヴァイオリンからピアノに転向された理由は何でしょうか。

ヴァイオリンは楽器としてとても好きですし、かなり高いレベルまで行きましたが、自分がプロのヴァイオリニストになるということは一度も想像できませんでした。ですから、ピアノへの転向は自然なことでした。ピアノは私にフル・オーケストラの豊かさを与えてくれ、私が音楽で言いたかったことを表現できるようにしてくれました。

アダム・ハラシェヴィチ先生(1955年ショパンコンクール優勝)からは何を教わったのでしょう。

ハラシェヴィチ先生に学んだことで、私がいかにショパンを愛しているかに気づきました。ショパンが何たるかを理解して、私の本来の演奏スタイルがそれに完璧に合っていたこともわかりました。先生の教えによって、ショパンが音楽に込めた想いや音楽的表現が理解できるようになり、また、ショパンの作品解釈の長い歴史と伝統も感じることができました。ハラシェヴィチ先生はルービンシュタインやミケランジェリなど偉大なピアニストたちとの交流によって、彼自身のショパンのスタイルを完成させました。私がこうした優れたピアニストたちの系譜の一員となれることをとても誇りに思います。

ハラシェヴィチがショパンコンクールで優勝したとき、アシュケナージが2位だったことで当時スキャンダルとなり、今回はヴンダーさんが2位で同じように抗議が殺到して、何か因縁めいたものを感じます。いま振り返ってみて、昨年(2010年)のショパンコンクールはどのようにお感じになりますか。

この質問はもう何度も受けていますが、本当に私はいつも「あれは我々全員にとってすばらしい経験でありイベントだった」と答えているのです。私はあまりコンクールに執着しませんし、そもそも1位を決めるコンクールのシステムは決して好きになれませんでした。しかし、ショパンコンクールがほかのコンクールと決定的に異なる点は、すべてが作曲家ショパンのためにあるということです。私はこの天才作曲家ショパンを正しいあるべき姿で表現しよう、そして近年失われつつある古き良き演奏スタイルに戻ろうとしたのです。

ショパン以外に、好きな作曲家やこれから取り組みたい作曲家はいらっしゃいますか。

すでにモーツァルト、リストをリサイタルにとり入れていますし、近いうちにチャイコフスキーとベートーヴェンのピアノ協奏曲もやります。でも私の興味はスカルラッティから映画音楽までとても広範囲に広がっています。2012年にリリース予定の次のソロCDでもその一端をお見せできるはずです。

日本でもピアノを学ぶ多くの人々がいます。ピアノ上達のアドバイスをいただけるとしたら、どんなことでしょうか?

自分の演奏を愛することです。自分が弾く音のひとつひとつを本当に愛することなくして、真の音楽はありえません。

名門ドイツグラモフォンと契約されて前途洋々です。音楽家として、これからの夢をお聞かせください。

まだ演奏したことのない有名なコンサートホールで演奏することや、偉大な音楽家たちとの共演など、もちろん夢はたくさんありますが、でもそれ以上に大事なのはバランスです。生活全体が満ちてこそ、すべての演奏が特別なものになるのです。それが私の目標です。

こちらの質問ひとつひとつに、とても丁寧かつ的確な言葉でお答えいただいたこのインタビュー。日本で行われたショパンコンクール入賞者ガラ・コンサートでも、紳士で自信に満ちた態度、輝かしいピアニズムで聴衆を魅了したヴンダーが、いよいよソリストとして日本デビューを飾ります!