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Interview@philiahall


音楽は一期一会。香りたつ演奏を。
ピアノ:河村尚子

2012年6月16日(土) 18:00

 

2009年の素晴らしいショパンのメジャーデビューアルバムで一気にブレイク。次代を担う若手ピアニストの筆頭として、いまやソロに室内楽にオーケストラにひっぱりだこの人気ピアニストとなった河村尚子さん。3年ぶりのフィリアホール登場となる、待望の6月のリサイタルを前に、いまの心境をうかがいました。

大きな舞台でいつも注目を浴びる存在となって、ご自身の中での変化、あるいは変わらないものなどをお聞かせいただけますか。

私の他にも音楽家としての才能がある方、注目されるべき芸術家の方はたくさんいらっしゃいます。これまでさまざまな方々のご支援があったおかげで今の活動がありますし、聴衆の皆さまの前で演奏をさせていただける機会があることをとても幸運に思います。私自身を取り巻く環境は以前と比べて変化があったかもしれませんが、音楽に対する想いは変わらず、常に初心を忘れないように心がけています。理想としては、美味しいパン屋さんのように、出来立てのイースト菌がほのかに香るパンを毎日ご提供できるような演奏家でありたいですね。

今回のプログラムは、関東近郊ではフィリアホールだけで聴ける楽しみなプログラムです。

河野尚子
photo©寺澤有雅

私の両親はクラシック・ファンで、休日は必ず朝から晩までバッハ、モーツァルトなどのレコードやCDを聴いていました。その中でも印象的だったのが、父が内田光子さんのモーツァルトのソナタ全集を集めていたことです。同じCDを何回もかけて聴いたり、違うものを何枚も続けて聴いたり。おかげでモーツァルトのソナタは幼い頃から全曲聴いていました(笑)。その中でも、素敵だからいつか弾ければ良いな、と思っていたのが今回のピアノ・ソナタ第12番へ長調です。何ともなく穏やかに始まり、オペラのようにドラマティックに変化を遂げていく第1楽章、幸せそうに歌っているなと思うと哀しげになったり、少し気まぐれな第2楽章、花火のように華やかに始まる技巧的な第3楽章と、演奏する方も大変楽しい作品です。シューベルトの「さすらい人幻想曲」は、幻想曲とありますが、4つの楽章が休みなく次々に演奏されるソナタのような構造で、リストの「ロ短調ソナタ」の先駆けだと思います。若々しく元気に始まる第1楽章。変奏曲としてシューベルトならではの歌曲のように美しい旋律が続く第2楽章。チャーミングでユーモアにあふれるロンド形式の第3楽章。そして、ピアノという楽器では収まり切らないのではないかと思うくらい仰々しいフーガ形式の最終楽章。たった20分弱の作品ではありますが、大変中身の濃い曲です。メンデルスゾーンの「無言歌」を演奏するのは、今回が初めてです。たくさんある中からどれに決めようかと少し悩んでいたのですが、フラットの調性ならば、最後のシューマンの「フモレスケ」への架け橋になるのでちょうど良いのと、できるだけ「フモレスケ」と近い時期に作曲された作品を、と考えてこの2曲になりました。お客さまには2人のドイツ人作曲家が同じ時期に手がけた作品を聴き比べていただきたいです。そして、シューマンの「フモレスケ」は、昨年秋にリリースしたCDに収録したので、録音を聴かれた方もいらっしゃるとか思います。「謝肉祭」、「交響的練習曲」、「クライスレリアーナ」、「幻想小曲集」と比べると知名度に少し欠けますが、私はこの曲を通してシューマンという作曲家を少し理解できるようになり、好きになりました。美しさに満ちた素敵な旋律やモティーフ、躍動感溢れる楽しげなエピソード、重厚な和音で厳格かつ情熱的な場面など、たくさんの気質が合わさっています。「フモレスケ」とはドイツ語の「フモア」(Humor)からきていますが、ユーモアやギャグという意味です。作品の中の劇的な気分の移り変わりをシューマンはユーモラスと考えたのではないか、と私自身解釈しています。皆さまにも「フモレスケ」の音楽の絵巻を楽しんでいただければ光栄です!

河村さんの目指す“ピアニスト”の理想像はどういったものでしょうか。また、憧れのピアニストはいましたか。

私たち音楽家は毎日のように数時間楽器に触れて、音楽に携わっていることが日常です。しかし、演奏会を聴きにいらっしゃるお客さまにとっては、演奏会場でしか接点のない、1回1回が生のライブなのです。その事実を忘れず、自分自身がなぜ舞台に立っているのかを常に問いかけています。難しいことではありますが、その瞬間瞬間に生まれる音楽を大切にしたいです。小さい頃からあこがれのピアニストはたくさんいました。実家で聴いていた内田光子さんやルービンシュタイン、ホロヴィッツにケンプ。アルゲリッチ、ギレリス、リヒテルに憧れた時期もありました。グルダも大好きです。

音楽活動のバランス、目標などを教えてください。

ソロに限らず室内楽も大好きですし、数多いピアノ協奏曲にも色々と挑戦したいです。レコーディングは1年から2年に1枚、自分自身が納得できるような録音を丁寧に仕上げていければと思います。音楽ばかりではなく、読書や映画・美術鑑賞、社会全体に興味の輪を広げるのも大切ですし、より多角的な視野を持つように心がけていたいです。演奏、指導、プライベートの3つをバランスよく充実させ、今後も健康を保って活動していきたいと思います。

ドイツのエッセンの大学で非常勤講師を昨年から始められたとのこと。教えることはいかがですか。

教えることで、教師である私自身がたくさんのことを学んでいます。大変楽しいです。生徒に自分の考えを押しつけないようにしています。それぞれの個性の長所を伸ばし、まだ足りていないことに関しては、質問・疑問をなげかけることで理解してもらえればなあと思っています。良い教師かわかりませんが、できる範囲で挑戦しています。

普段のリフレッシュ方法はありますか。

睡眠をたっぷりとって、部屋を片づけること。他にジョギング、自力整体(ストレッチとヨガのミックス)をすることです。

好きな食べ物は?

サツマイモ、かぼちゃ、長芋、納豆、チーズ。

今までに訪れて、印象に残っている場所はありますか。

今年演奏旅行で、生まれて初めてイスラエルに行きました。エイラートという街で、イスラエルの最南端にあたる場所にあり、紅海に面しています。すぐそばにエジプトとヨルダンの国境があり、海を挟んでサウジアラビアも近いです。零下のドイツから到着した私は、1月だというのに日中20度以上にも上がる気温に驚いてしまいました。紅海の澄んだ水とその中を泳ぐ色鮮やかな魚。イルカ・パラダイスで自由気ままに泳ぐイルカ。死海水の浴槽で身体が勝手に浮いたことも忘れられません。毎日新鮮で食べ頃のパプリカ、トマトやオレンジなどさまざまな野菜や果物。初めての出来事がいっぱいだった日々でした。空港での異常なほど厳しいセキュリティーチェックも印象的で、チェックインするまで1時間半もかかり、ちょっとびっくりしました…。