Fhilia Hall
アーティスト インタビュー

吉野直子(ハープ)&宮田まゆみ(笙)

2016年12月10日 17:00コンサートの詳細

 

ハープと笙が生みだす、宇宙の音楽…

「ハープ」と「笙」、東西それぞれの楽器で日本を代表する奏者として活動する、ハーピスト・吉野直子と笙奏者・宮田まゆみ。 国内外の最前線で活動するお二人、フィリアホールでは初の共演。どのような《出逢い》が生まれるのか、期待が高まります。今回は公演前のお忙しいところに、フィリアホールでお二人にお話を伺いました。充実したロング・インタビューです!

 

 

お二人が初めてお会いされたのはいつ頃でしょうか?

 

吉野:もう20年以上前だと思いますが、(フルートの)工藤重典さんと3人で、雑誌の鼎談でお会いしたのが初めてだと思います。音楽誌じゃない、婦人誌でしたね。なぜその3人になったのか…。
宮田:ずいぶん前ですよね。
吉野:それ以前から宮田まゆみさんのお名前は、もちろん知っていました。今回のコンサートで演奏する「うつろひ」の初演をされていて、その時の共演者のハーピストの長澤真澄さんも、自分が小さい時から知っていたりするので。
宮田:私はもちろん吉野さんのご高名を…(笑)
吉野:何をそんな…(笑)その後に、彩の国さいたま芸術劇場で、諸井誠さんからのお声掛けで演奏をご一緒したんです。

 

その時は、同じくハープと笙だったのでしょうか?

 

吉野:諸井誠さんの曲に「源氏の四季」というシアターピースのような長い曲があって、そこからの抜粋を演奏しました。ヴィオラと笙とハープという編成で、ヴィオラは豊嶋泰嗣さん。そしてデュオでは、今回も演奏する、徳山美奈子さんの「ファンタジア」をご一緒しました。

 

お会いされた時、お互いをどう感じられましたか?

 

宮田:私は、可愛らしいお嬢さんだなと(笑)
吉野:えっ、そうなんですか?(笑)。私は、宮田さんはとても気さくにお話させていただける、素敵な方だなという印象でした。笙という楽器は、今でこそこうやって一緒に共演させていただいて少し身近に感じていますけれど、全く知らない世界でしたし、ずっと西洋音楽・クラシックの世界にいて、もともと雅楽とか邦楽をほとんど聴いたことがなかったので、未知の世界というか見当もつかない、何か神聖な楽器というイメージでした。

 

今回のプログラムの聴きどころを教えてください。

 

吉野:提案したのは私なのですが(笑)それで宮田さんはOKして下さって。
宮田:いつも本当に、すごくよく考えられています。
吉野:笙とハープという二つの楽器、私たちはよく共演しているのですが、もしかしたらホールにいらっしゃる方々は初めて聴かれる方もいて、どんなかな?というのもあると思います。この編成のためのオリジナルといえば、細川俊夫さんや徳山美奈子さんの曲のような、現代の作品になります。その中でも細川さんの「うつろひ」は、現代物の中でも古典みたいな存在になりつつある大切な曲です。ただ、プログラムが現代の作品ばかりになってしまうと、フィリアホールにいらっしゃる土曜の5時、毎年いらっしゃって下さる方にとっては少し肩の凝る感じになってしまうかもしれない。だから、そこでちょっと親しみのある曲も二人で出来るものを考えました。
あとはやっぱり、それぞれの楽器のソロも聴いていただきたくて、宮田さんには、ぜひ笙の古典の作品も、とお願いしました。曲順については色々考えてみたのですが、最終的に、耳慣れたもので始まって終わって、その間に現代作品を入れて、ちょっと違う世界を味わっていただく、という感じになりました。
宮田:土曜日の5時、皆さんゆっくりなさりたい時だと思うので、くつろいで頂けるプログラムをよく考えて下さいました。

 

今回のプログラムには現代作品がいくつか含まれますが、お客様の中では笙の現代音楽というものがあるということ自体を初めて知った、という方がいらっしゃると思います。ハープについても現代の作品はたくさんありますが、現代作品をそれぞれお二人が演奏される時に意識されることがありましたら教えてください。

 

宮田:古典作品の場合には、千年以上経っているので、人の手を離れて自然と一体になるというか、人の感情とか喜怒哀楽ということから離れて、ちょっと抽象的な形の美しさというものを見られるかと思うのです。
例えば木を見て美しいと思ったり、雪の結晶みたいな整った形を見て美しいと思ったりするのですが、それは別に感情のレヴェルじゃなくて…嬉しいとか悲しいとかではなく-感情移入して木を見て感情が入ることもありますけど-それ自体は感情があるものじゃなくて、でも在ることで美しい、美しい存在という風に言えると思うのです。
そういうものと同じような感じに、音楽が研ぎ澄まされてくるので、演奏するときには自分が人間として演奏するというよりも、何か自然と一体になって、もっと大きく言っちゃうと、宇宙と一体感・・・その響きをそこにいらっしゃる方と共有するという。自分が演奏家として演奏しているという気持ちよりも、その響きを共有する、一体になる、響きあうという感じかなと思うのですね。

新しい作品は-ジョン・ケージさんの作品は古典に近い作品になると思うのですけれど-自分が人間の気持ちを持って、意図をもって作り上げていくという、人間の手が入る曲。そういう曲は古典とは別に面白さがあって、自分たちで作り上げていく。作曲家だけが作ったわけじゃなくて、作曲家が提示した音楽の素材は完成した作品ではあるけれど、素材としてまだ演奏家が作っていく部分というものがあると思います。それを一緒に作り上げていくのは、共演する人によって全然違う姿になります。

吉野:宮田さんの笙には、自然、そして宇宙の一部になっているような、不思議な魅力を感じます。宮田さんとご一緒すると、フルートやヴァイオリンなど西洋楽器と共演する時とは少し違う感覚があって、笙の持っている世界-それはもしかしたら「宮田さんの」世界なのですが-何か宇宙全体、空間全体に拡がる音の世界があって、その中でハープが自由に気持ちよく演奏させていただく、という感覚があるのですね。
現代の作品を演奏する時は、作曲家の意図をくみ取って、私たちなりに解釈して、そして演奏する場所が変われば、演奏自体も少しずつ変わっていくこともあると思いますが、宮田さんとご一緒すると、そういう曲でも、もう少し時代を超えた、なにか宇宙的な大きさというか、大きいだけじゃない、繊細さもあって、でも同時になにか自然に近い感じもあります。
宮田:雅楽の古典の中でも、笙の役割というのは、色々な楽器を乗せて運んでいるみたいな役割をしているのですね。いつも和音が切れ目なく鳴っているので、大きな河の流れを作って、それに雅楽だったら龍笛とか篳篥とか琴とか、流れに乗って色々刻んでいって、笙は背景、みたいな…。
吉野:いやいや、決して背景ではありません!(笑)宇宙そのものを作っている。そんな感じがします。

 

宮田さんが吉野さんのハープと共演する時にはどうお感じになりますか?

 

宮田:元をたどっていくと、ハープも笙もすごく古い楽器で。ハープはアッシリアですか?
吉野:メソポタミアとかエジプトとか、その辺りですよね。
宮田:何千年も前の楽器だし、笙も少なくとも3,300年前には存在していたらしいですね。
文字にも書かれているので。その頃の人間と音楽の関わりというのが、例えばハープだったら、ギリシャでは神アポロンの持ち物・象徴する楽器でもあるし、古代的な中にも、とても秩序をもった音律がきれいに整った楽器です。
それは日本の古代の琴にも通じます。日本の琴は、神様からの声を聞く楽器だったのですね。聞くことによって神様からの託宣をきちんと受けられる。琴は天皇が持つ楽器でした。その後の時代には、琵琶になったり笙になったりするのですけれど。
だから、ハープはそういうDNAをもっていて、とても自然に響きあえるという感じがしています。音も、強い音も出るけれど、全体に言うとやわらかい音ですね。
吉野:そうですね、強いというよりも、響きが豊かという感じかもしれないですね。
宮田:物理的な響きからいっても、精神的にも解け合える。

 

宮田さんはかなりお久しぶりになってしまいますが、フィリアホールの印象を教えてください。

 

宮田:本当に久しぶりなのですが、すごく音響もいいし、駅の周りは小都会といった感じで便利ですけれども、その周りは住宅街でそういうところにあって落ち着いている、という印象で、中に入ればとても音響も立派でこぢんまりとした、程よい大きさのホールです。
最初から割と完成された形のホールですよね。演奏するのに気持ちが良いです。

 

笙を演奏される際、どのようにこのホールは響いてきますか?

 

宮田:雅楽の楽器、特に笙は、割合響くところが好きです。教会で演奏するようなことがとても合うような気がします。笙にとっては、いい響きだと思います。

 

吉野さんのハープもこのホールではいつもとても良い響きです。

 

吉野:フィリアホールの響きは、本当に大好きです。響きがとても豊かでありながら、細かいニュアンスも客席にしっかりと伝わり、とてもバランスが良いんです。大きすぎず、お客様との距離感もちょうどいいです。
(オープンした)最初の年から、毎年変わらず12月にコンサートをさせていただき、自分のデビューからという程ではないですけれど、なにか共に歩んできたような感じです。フィリアホール、お客様、そして毎年の公演に育てられてきたような感覚です。ここは、なにかいつも共にある、大事な場所という感じがします。

 

今回はお二人で、ドビュッシーやバッハなど西洋の音楽を編曲されたものも笙とハープで演奏されます。西洋音楽を笙で演奏する、というのはどういう感じなのでしょうか?

 

宮田:日本の楽器で西洋音楽も出来ます、みたいに演奏するというのが私はあまり好きではないのですが、日本の音楽の中にもいくつも時代の変遷があります。
私たちの時代に邦楽というと、割合近世の邦楽、琴・三味線・尺八などを思い浮かべることが多いのですが、それは江戸時代から現代に至るまでのことです。たとえば日本の大きいジャンルでいうと、能ですと15世紀くらい、そうすると江戸時代は17世紀以降なので、200年くらい時間差があります。雅楽の場合には、盛んだったのが8世紀から10世紀位なので、そこから500年以上もうちょっと時間差があって、それぞれ音楽のコンセプトが違っているのですね。
楽器の役割というのも違ってきていて、割合近世の楽器というのは、感情移入しやすい。たとえば文楽の浄瑠璃などで感情移入するときに、三味線が語りかけるみたいなところもありますし、歌舞伎の三味線や笛もそうです。
雅楽の場合は色々な楽器があるのですが、その中で笙というのは割合デジタルな楽器なのですね。というのは、構造が竹でできていて、小さいオルガンみたいにリードがあって、もうピッチが定められている。篳篥とか龍笛という管楽器は、定められた音律から指を変えたり吹き方を変えたりして音をポルタメントにできたりするので、技法としては感情移入することも出来るのですが、雅楽の音楽自体、あまり感情ということではなく、もう少し形の抽象化された音楽という面があります。その中でも、笙はかなり抽象化された音の出し方、音の響きですね。
近世の楽器だと、時には「あ、邦楽で洋楽をやっている」というちょっとキッチュな感じがするのですけれど、笙の場合には割と、アコーディオンでやっているのかな、ハーモニカとかオルガンでやっているのかな、と。音色は西洋楽器とちょっと違うところもあるけれど、すごく違和感があるというのではない。笙の場合だと邦楽の楽器でやっているという感じではなくて、例えば洋楽のハープとフルートを合わせるという感じです。パンフルートみたいな楽器も雅楽の中にもあったのです。途絶えてしまって今は使っていないのですが、ハープとパンフルートだったらそんなに違和感ないですよね。
吉野:確かにそうですね。
宮田:私がたとえば三味線や琵琶と共演するとなると、何となく水と油みたいな感じで、むしろ違和感があるのですね。
吉野:なるほど!
宮田:日本のジャンルでいったら、雅楽の中で共演するのはいいのだけれど、他の邦楽の楽器と共演することは、むしろ洋楽の楽器とするよりは違和感があります。私自身はそういう風に感じます。他の雅楽をやっていらっしゃる方はわかりませんけれど…。

 

吉野さんもハープの現代作品をよく演奏されていますが、ロマン派から近現代までのいわゆるハープのメインのレパートリーからさらに新しい時代の曲を演奏する時に、どのようにお感じになっていますか。

 

吉野:ハープのレパートリーと可能性を拡げていくのは大切なことなので、現代曲を積極的に演奏していくことは、とても大事だと思います。自分が魅力を感じるのは、ハープ本来の「ハープらしい」音や響きの上に立って、さらにその可能性を拡げようとしている曲です。むやみやたらに今までのものを壊すというのではなくて…。あとは、新しい奏法を生み出したりして、ハープでこんなことも出来る、こんな世界もあると気づかせてくれるような作品があれば、少し冒険をしてでも挑戦したいと思っています。
今年の夏には宮田さんに声をかけていただいて、笙とハープのための2つの新作の初演をご一緒しました。2つの作品は対照的で、まったくタイプが違う作品でした。宮田さんが委嘱をしてくださったおかげで、新しい作曲家、そして作品に出会うことができて、貴重な経験になりました。

 

宮田さんは横浜市内にお住まいと伺いました。横浜に関する何かエピソードがあれば教えてください。また吉野さんもフィリアホールに毎年いらしていますが、この青葉台近辺の町はいかがですか?

 

吉野:私は子供の時から、海外にいた時期を除いて、ずっと東急沿線に住んでいます。青葉台も東急沿線だからか、何となく親しみがあります。青葉台は住宅街なのだけれど、駅の周りはいい意味でコンパクトな都会みたいで、色々なものがそろっていて、こんなに素晴らしいホールまであって…。そういえばフィリアホールは青葉区の「区」の施設なので、区民の方も借りられるのですよね?
宮田:私は小学校の終わりまで世田谷に住んでいたんですが、中学校で横浜に引っ越して、それからずっと横浜です。近くに鶴見川が流れているんですが、そこからの風景がとても気持ちが落ち着いて。笙を始めようと思ったのも、その風景からくるインスピレーションもありました。緑が豊かで、音楽が浮かんでくる土地かな、という風に思っています。

 

先ほど、笙は流れを作る、というお話がありましたが、川を見てというのは印象的です。

 

宮田:一般の人から見たら何の変哲もない川なのですが、それがあることですごく気持ちがいい。ここに住んでいて嬉しいな、という気持ちになります。

 

今回宮田さんには小学校へのアウトリーチ公演もお願いしています。ホールの外、特に学校や福祉施設など、いわゆるコンサートを通常聴きにきて頂いている方向けではない場所で、コンサートやワークショップをする時に、お二人はどのように取り組まれていますか?

 

吉野:アウトリーチ先の場所や、どんな方が対象になっているかによって、少しずつ変わってきますが、いつも心がけているのは、なるべく聴いてくださる方と同じ目線でいるということと、アウトリーチではホールと違い、聴いてくださる方との距離が近いので、その距離の近さを活かして、楽器を身近に感じてもらうということです。目の前で楽器を聴いて、身体全体で響きを感じていただくことによって、「あ、やっぱり生の音楽っていいんだ!」と思っていただきたい。例えば、この近くの学校がアウトリーチ先であれば、子供が面白いと思ってくれたら、「近所にこんなにいいホールがあるのだったら、今度はコンサートに行ってみよう」、と、そういう風につながると嬉しいなと思っています。ハープは近くで見る機会があまりありませんけれど、見ると本当に細かいところが面白いですし。

 

笙も、世間の方も、ああこの楽器、とご存じの方は結構いらっしゃると思いますが、どうやって演奏するか、というところをご存じの方はほとんどいらっしゃらないと思います。

 

宮田:ホールでコンサートをする場合は、割合「公式の場」という感じで、自分自身も公式に出したい音楽というのをあまり逸脱したくない、という囲いはありますが、アウトリーチになると、舞台裏も見て頂くということで、この楽器に親しんで頂くきっかけにもなるかと思います。普段はちょっと隠しているけれど、この楽器でこんなことも出来るんだ、こんな風に楽しんで頂けるというところを聴いて頂きたい。
小学校の低学年のお子さんで、大人から見たらこういう音楽は難しいのではと思うようなものでも、ただ何にも先入観無く、演奏すると目を丸くして聴いてくれます。小学生だから、難しいものをやるとぐずぐず退屈しちゃうんじゃないか、と大人は思うけれど、そんなことなくて、小学生はすごく集中して聴いてくれるということがとても多かったです。あまり大人の先入観無く、遠慮なく演奏させて頂こうかなと。
確か上越市のアウトリーチで、突然中学校の吹奏楽と一緒に演奏することがあって(笑)3、4曲一緒に演奏しました。すごくみんな上手だった。

吉野:私は小さなアイリッシュハープを持っていって、何人かに実際に楽器に触ってもらったりしました。ハープは、誰でも弾けば音が出ますが、いい音を出そうと思うと、意外に力が必要なので、そのあたりを実際に体験してもらおうと…。

 

では最後に、フィリアホールのお客様にメッセージをお願いします。

 

宮田:土曜日の午後のとてもくつろげるいい時間なので、のんびりと楽しんで頂けたらと思います。12月でクリスマスも近いので…バッハの曲も、何となくクリスマスっぽいですし(笑)。
吉野:笙とハープのデュオというと、どんなイメージになるのか、すぐに思い浮かばないかもしれませんが、逆に先入観をもたないままホールにいらしていただいて、響きを楽しんでいただければ、と思います。色々な世界、そして色々な時代を旅することができるようなプログラムだと思います。

 

 

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