Fhilia Hall
アーティスト インタビュー

吉野直子(ハープ)

2017年11月25日 17:00コンサートの詳細

 

長く演奏してきたからこそ発見できる、音楽の新しさ。

世界最高峰のハーピストの一人、吉野直子。フィリアホールをホームグラウンドとして開館以来ずっと出演してきた彼女の演奏は、デビュー30周年を迎えた今もなお、ますます進化を遂げています。そんな彼女が今回デュオで共演するのは、ベルリン・フィル元首席、その圧倒的な技術と表現力で「天才」の名をほしいままにするチェコ出身のホルニスト、ラデク・バボラーク!この世界最高峰の才能をもつ二人が奏でるのは、バボラークの故郷チェコにちなんだ叙情的な作品から、この編成のためのオリジナル作品まで、豊かな音楽性をたたえたプログラム。この豪華共演を控えた10月、吉野直子さんにインタビューでお話を伺うことができました。

 

 

ラデク・バボラークさんとはCD「デュオ・ドゥ・レーヴ」などで既に共演されていますが、その演奏の魅力を教えてください。

 

吉野:バボラークさんとは、結構長いお付き合いです。彼は若い時からサイトウ・キネン・オーケストラに来ていて、そこで一緒に弾いたのが最初で、その後デュオを一緒にやるようになりました。彼の魅力は、まず、ホルンってこんなにラクラク吹ける楽器なの?というか、全くその難しさを感じさせないところです。そして何よりも、音楽が本当に自然なんですよね。さらにあの音色。チェコの伝統なのか表情がとても豊かで、美しい音で、すごく柔らかい。声で歌うのと同じように、ホルンを自由自在にあやつるバボラークさんとは、何回共演しても本当に素晴らしいと思いますね。

 

バボラークさんはフィリアホールでも2013年にピアノの菊地洋子さんとリサイタルで出演されていますが(《ただ一つの世界》第5回)、表現の幅が本当に尋常でなく広い方です。自分の意図する通りに楽器を自在に操れる。やっぱりそういう所が、他のホルン奏者とはまた違うところがありますか。

 

吉野:特に彼の場合は、楽器を通じて彼自身の声を聞いているかのような感じがあります。

 

吉野さんはこれまで本当に色んな方とデュオで共演されていますが、毎年出ていらっしゃるフィリアホールでも、ホルンとの共演というのはおそらくなかったのでは…。

 

吉野:実は、合唱と一緒に共演したことがあるんです。ブラームスの女声合唱とホルン2本のための曲がありまして(2つのホルンとハープ伴奏による女声合唱のための4つの歌op. 17)、フィリアホールがオープンして間もない頃に演奏しています(1997年)。その時に、ホルンとのデュオも数曲弾きましたが、デュオだけでの一晩というのは、今回が初めてです。

 

いろいろな楽器とのデュオで、ホルンという楽器と、他の楽器との違いが何かあれば教えてください。

 

吉野:もちろん合わせる楽器によって響きが違いますし、相手の方にとっても、普段ピアノと合わせているのとハープとでは、バランスや音色など違うと思います。でも、この楽器だから、というのはあまりありません。やはり一番大切なのは、音楽的に共感できて一緒に音楽を作っていくことができる相手だということです。その場合相手の方は、私のハープの音を聴いてバランスとか音色作りをしていきますし、私もたぶん相手の楽器の音に自然に反応しているのだと思います。ですから、特にホルンだからこうしよう、というのはないと思いますね。

 

今回のホルンとハープという組み合わせで、一番魅力的に感じる瞬間はどういう所でしょうか?

 

吉野:ホルンはとても響きが豊かです。特にフィリアホールのような場所ではそう感じます。その豊かな響きの中で、二人で一つのものを作っていく感覚が、一番の魅力だと思います。

 

ホルンは他の楽器に比べても非常に広がりが多い響きの楽器ですよね

 

吉野:そうですね。たとえばフルートのような楽器はもっと音域が高いですし、もう少し直線的な響きをもっています。でもホルンは包み込むような響きで、さらにバボラークさんの場合は、本当にいろいろな表情があるんです。今回は、オーボエがオリジナルの曲や、歌曲など、様々な曲を演奏しますが、曲想によって響きが多彩に変化していきます。

 

今回のプログラムを拝見すると、クーツィールのようにオリジナルの編成の作品もありますが、サン=サーンスのオーボエ・ソナタのように、ハープがピアノパートを演奏する曲がいくつか含まれています。

 

吉野:確かに今回、オリジナル編成はクーツィールだけです。他にも作品はありますが、今回は入れてないですね。

 

ピアノパートをハープで演奏するというのは大変ではないかと思うのですが…。

 

吉野:確かに何でもかんでもやっていいものではないと思っていて、ハープにあまり無理なく、音色的にも音型的にも合うものを選ぶことがやはり大切だと思います。
たとえばサン=サーンスのオーボエ・ソナタは、ホルンもハープもオリジナルではありません。でも、フランスにはハープの作品がたくさんあり、またサン=サーンス自身がハープのオリジナル作品を書いていることもあり、このソナタのピアノパートは、音色的にも音型的にも無理なくハープで弾けるように感じます。
一方でクルフトは今回初めて取り上げますが、ベートーヴェンと同時代のソナタで、もう少し鍵盤楽器的なので、ハープで弾く場合は多少の工夫が必要です。バボラークさんと相談する中で、ちょっとハープでは無理がありすぎるかな?という曲もいくつかあり、それでクルフトになりました。
ハープは響きが豊かですが、その響きは意識的に消さないと消えないんです。ピアノは例えばスタッカートとか短く音を切ることが難しくないですよね。だけどハープの場合、楽器の弦全体が響くので、弦を押さえないと消えません。それなので、ハーモニーのことを考えたりして、音楽的におかしくならないように工夫をする、そういうところは結構意識しています。

 

あとピアノの場合、白鍵と黒鍵というのがキチンと分かれているところが、ハープは一線にまとまっていますから、見る側からするとどうやってそこは弾いているんだろう…という興味があります(笑)。

 

吉野:そうなんです。ペダルの関係で、どうしても全部の音を弾けない場合があります。無理がありすぎる場合は、音を少し抜いたり、同じハーモニーの中で別の音にするなどが必要な時もありますね。でも今回は、そういうことをほとんどしなくてもいい曲ばかりだと思います。

 

今回、クルフトのように初めて演奏される曲もあると思いますが、このプログラムの中で、凄く好きな曲を、もしどれか1つあげるとすれば?

 

吉野:悩みますね。今回のプログラムはバラエティに富んでいるので、そういう意味ではいろいろな響きを楽しんでいただけるのが一番の魅力だと思いますが、やはり、ホルンとハープのためのオリジナルであるクーツィールが、一番のびのびと演奏できます。ハープをたっぷり響かせて、ホルンもホルンらしく…いかにもホルンという響きを楽しんでいただけるのではないかなと思います。

 

やはりオリジナル編成で書かれた作品は、その楽器がよく響くように書かれているんでしょうね。

 

吉野:そうですね。その楽器を最初から想定して書いているので。

 

ドビュッシーの「スラブ風バラード」という曲も、それこそ前半のドヴォルザークからの、バボラーク氏の故郷チェコつながりの作品ですね。

 

吉野:私も楽しみです。ドビュッシーのこの曲は、実は譜面が最近やっと手に入りまして…(笑)。とてもすてきな曲です。オリジナルはピアノですが、やはりドビュッシーはハープにとても合いますね。

 

これまでも色々な方とご共演をされていると思いますが、バボラークさん以外で、これまで共演した中で、どなたか特に印象に残っている方はいらっしゃいますか?

 

吉野:これまで本当にたくさんの機会に恵まれてきたので、一人選ぶというのはなかなか難しいです…ハープはフルートと共演する機会や曲が一番多く、モーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」という名曲もあるので、特にフルート奏者と数多くの共演をさせていただいてきました。
その中でも、オーレル・ニコレさんには本当にいろいろなことを教えていただきました。バッハをご一緒したり、武満のトリオを初演したりしたご縁で、本当に素晴らしい音楽のエッセンスみたいなものを教えていただいた感じがします。
あとは、ウィーン・フィルのヴォルフガング・シュルツさんの音楽はすごく自然で、モーツァルトのフレージングなど、数多くを勉強させていただきました。

 

シュルツ氏といえば、2013年に来日して(カメラータ・シュルツ)吉野さんとご共演する予定だったんですね。来日する前に残念ながらお亡くなりになって、代役でワルター・アウアー氏がいらっしゃいました。

 

吉野:カメラータ・シュルツは、音楽家一家であるシュルツ・ファミリーが中心となった室内オーケストラで、あのツアーは結果的にシュルツさんを追悼するコンサートツアーになってしまいましたが、ある意味とても心に残る時間になりました。
フルート奏者では他に、(エマニュエル・)パユさんもまた素晴らしいし、本当に誰が一番というのはなくて、一緒に共演することによっていろいろな世界・いろいろな引き出しが増えて、自分の世界が拡がるように思います。そして、自分が次に誰かと共演した時には、その拡がりがまた反映されていくといいなと思っています。

 

そうやってさまざまな方と共演して積み重なってきたものが、別の方と共演した時に繋がっていくっていうのはとても良いですね。 そんな中、今後これから取り組んで行きたいもの…編成や、作曲家や…、そういうものがもしあれば教えてください。

 

吉野:デビュー30年を過ぎたのですが、自主CDレーベルを作って、毎年1枚ずつレコーディングしていて、当面ソロアルバムを5枚程度録音するのが、今一番の目標です。次作は、バッハの「シャコンヌ」や、ブラームス、シューベルトのピアノ曲など、ハープのオリジナルではない作品ばかりを集めたものになります。ハープのオリジナル・ソロ作品を書いてくれなかった作曲家にも、実はハープに良く合う作品があり、いつもとは少し違うハープの魅力を出せれば、そしてその中で、自分なりの世界を出せれば、と思っています。

 

ハープも本当に色んな可能性がある楽器ですよね。

 

吉野:そうですよね。ですから、今あるレパートリーをより知っていただくとともに、ハープの新しい面を探していくことも大切です。また、現代作品への取り組みも、大切ですし面白いです。

デビュー30周年を迎えて、活動や、精神的に、変わったところは何かありますか?

吉野:あまり根本が変わったというのはありませんが、30年前から今までずっと長く弾いてきた曲でも、ふと気がついてみると、以前の演奏とは明らかに違っているんです。今まで聴こえなかった音が聴こえてきたり、この曲にこんな面があったんだ、という発見があったり。そういう「発見」を、これからも大切にしていきたいと思っています。長く弾いてきた曲を、今回自分のレーベルに録音するにあたって、今まで使っていた古い楽譜ではなく、何も書いていない新しい楽譜を使いました。昔から使っている譜面では、ついつい「ここはこういうものだ」と思い込みや先入観が入ってしまうんです。暗譜ですぐ弾けるような曲でも、まっさらの楽譜だけを見て弾いていくと、すごく新鮮だったり、今まで気がつかなかった面白さが発見できる…それは30年前には出来なかったことだろうし、今だから出来る、そういうことはあるかもしれないですね。

それは、本当に長く活動されて色々な曲を弾いてきた方ならではですね。

吉野:本当にまだまだ、なんですけれど(笑)レコーディングして、その時は「もうこれでいい!」と思っても、CDが出る頃になると、「あ…そうかー…」と思うことが常で…(笑)まぁ、でもそれだからこそ面白いのかもしれませんね(笑)。

 

 

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