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寺神戸亮(バロック・ヴァイオリン)

出演日:2017年1月28日(土)14:00

Saturday 28 January 2017 , 14:00

ヴァイオリン一挺から生み出される壮大な世界

ヴァイオリンの無伴奏はコアな世界でストイックなイメージがあるかも知れませんが、もともとはリュートの音楽をヴァイオリンで表現できないか、というようなところから発した親密な音楽なのではないかと思います。「シャコンヌ」になると大聖堂に響く壮大なオルガンの音のような錯覚を生み出すほどスケールが大きくなります。ヴァイオリン一挺から様々な世界が広がりますのであまり身構えずに気楽に聴いてみてください。

今回のプログラムは、バッハ「シャコンヌ」を到達点として進んでいく構成になっております。その聴き所を簡単に教えてください。

バッハの「シャコンヌ」は無伴奏ヴァイオリンのための音楽の金字塔的作品です。これを凌ぐ作品は後にも先にもないと言って過言ではないでしょう。もちろんバッハを手本としてその後優れた無伴奏作品は数多く生み出されました。しかしバッハにしても何もないところからこのような偉大な作品の霊感を得たわけではありません。彼の前にも、そして同時代にも無伴奏ヴァイオリンのための素晴らしい音楽があったのです。それらの作品がバッハに影響を与え、「シャコンヌ」を創造する原動力になったであろうことは想像に難くありません。「シャコンヌは一日にして成らず」そういう想いを込めてこのプログラムを組み立ててみました。無伴奏ヴァイオリンの音楽としては恐らくもっとも初期のバルツァー、バッハに直接影響を与えたであろうヴェストホフ、ビーバー、そしてバッハと同時代のテレマンの作品を聴いていただいた後に改めて「シャコンヌ」の偉大さを再発見していただければ嬉しく思います。特にビーバーは「パッサカリア」というシャコンヌによく似た様式の変奏曲。シャコンヌとの類似性も聴き取れることでしょう。

 

寺神戸さんとバロック・ヴァイオリンとの出逢いのきっかけを教えてください。

桐朋学園大学1年の時に「古楽実習」という授業をとったのがきっかけです。有田正広さん、本間正史さん、花岡和生さんが指導してくださいました。それまであまり好きではなかったバッハやモーツァルトに開眼し、バロック時代の音楽がこんなにも豊かで素晴らしいものだと知ったのはこの授業の影響が大きかったと思います。中でも有田さんには特に目をかけていただき、早くからコンサートをご一緒させていただきながらたくさんの勉強と経験をさせていただきました。鈴木秀美さんも一緒にやっていた室内楽を通して古楽に触れるきっかけを作ってくださいました。

 

バロック・ヴァイオリンと現代の楽器の違いを簡単に教えてください。

ヴァイオリンは他の楽器に比べてバロック時代から現代までそれほど変化のなかった楽器です。今でもバロック時代の名工によって作られた名器「アマティ」や「ストラディヴァリウス」などが使われています。しかし同じなのは胴体と頭(糸巻きとスクロール部分)のみで細部には色々な変更が加えられています。バロック時代には顎当ては付いていませんでしたし、指板も短く黒檀と楓やスプルースなどの合わせ板で軽く作られていました。ネックは胴体からまっすぐ、角度をつけずに取り付けられ、現代のものよりも太く、握りやすい形状でした。駒のデザインも様々、それぞれ音が微妙に違います。胴体内部の構造、バス・バー(力木)や魂柱は現代のものより細めなものが一般的でした。一番大きな音の違いを生み出すのは弦。ガット(羊腸)弦が使われています。ガット弦はよく撓むため弓の圧力によく反応します。そして表面は現代の金属弦よりもざらざらしているので弓によく引っかかり、アーティキュレーションの微妙な違いを表現するのに適しています。
バロック・ヴァイオリンを語る時に弓のことを忘れるわけにはいきません。楽器自体の変化は少なかったヴァイオリンですが、弓は時代によって刻々と変化していきます。バロック初期から現代までのレパートリーをカバーするには少なくとも5種類以上の弓を使い分けることが必要です。それに加えて材質も様々でヨーロッパの木、柳、レモン、桜などに加えて南米から輸入されるようになったスネーク・ウッドがバロック時代の弓の主流となります。その後アイアン・ウッドなども使われ現代の弓にはペルナンブーコが使われています。バロック時代の弓は正に「弓」の形をしており、手元では豊かな音が出、先に行くにしたがって減衰していきます。この特徴をうまく使うことによってバロック時代特有の表現、メッサ・ディ・ヴォーチェや様々の微妙な音色とアーティキュレーションを生み出すことができるのです。

 

最近では古楽器での演奏も多くなり、さまざまなスタイルが出てきました。その中で、寺神戸さんが特に追究したいと思っていることは何でしょうか?

ピリオド楽器を使い、歴史的奏法や演奏習慣を研究することによりその時代の音楽がより良く理解できます。作曲家が思い描いた音楽と音の世界を同時体験することでより深くその本質に迫ることができるように思います。しかし最終的に大事なのは歴史的に正しいかどうかではなく、その音楽が今に生きていること、そして現代の私たちに感銘を与えてくれることです。そのためには様式を理解し、それに則って演奏しながらも演奏の自由さを大切にしたいと思います。

 

多くの古楽器奏者がそれぞれの領域で刺激的な活動をされています。その中で特に印象深い・感銘を受けたアーティストがいらっしゃれば教えてください。

感銘を受けたといえば少し古いですがなんと言ってもグスタフ・レオンハルト、フランス・ブリュッヘンです。二人とも今は亡き人になってしまいました。そして師匠であるシギスヴァルト・クイケンとその兄弟達にも大きな影響と感銘を受けました。
今では古楽も多様になり、演奏も闊達になりました。フランスなどでは優れた若手がたくさん輩出しています。彼らの才能は素晴らしいし演奏は非常に達者です。恐らく古楽界の将来を担っていくと思います。特に鍵盤楽器では何人か特筆に値する人が出てきています。ピエール・アンタイ、バンジャマン・アラール、ジャン・ロンドーなど。

 

特にお気に入りの作曲家は誰ですか?

やはりなんと言ってもバッハ、モーツァルトです。しかしフランスの音楽も大好きです。特にフランソワ・クープラン。ヴァイオリンだとジャン=マリー・ルクレール。
そしてイタリアではコレッリが大好きです。イギリスではパーセルですが残念ながらヴァイオリンの独奏作品はありません。

 

フィリアホールでは、2000年にバッハ・イヤーということで、バロック・ヴァイオリンによるバッハの無伴奏作品全曲演奏を行われています。ホールの印象はいかがでしたか?

大分前のことなので・・・照明を割と暗くして演奏した覚えがありますが、静かで落ち着いた響きだったように記憶しています。今回もまた無伴奏ですがホールの響きと一体となった演奏ができれば、と思っております。

 

フィリアホールのお客様へ向けてメッセージをお願いいたします。

ヴァイオリンの無伴奏はコアな世界でストイックなイメージがあるかも知れませんが、もともとはリュートの音楽をヴァイオリンで表現できないか、というようなところから発した親密な音楽なのではないかと思います。「シャコンヌ」になると大聖堂に響く壮大なオルガンの音のような錯覚を生み出すほどスケールが大きくなります。ヴァイオリン一挺から様々な世界が広がりますのであまり身構えずに気楽に聴いてみてください。

 

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