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ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)

出演日:2017年10月6日(金)19:00

Friday 06 October 2017 , 19:00

年齢を重ねることで変わる演奏の喜び。

みなさんがおそらく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタに対するアプローチと、ショパンのピアノ・ソナタへのそれとの違いに興味を感じてくださるのではないかと期待しています。後半のショパンのソナタ第2番との間に、いろいろな違いがあることを発見してくださるでしょう。スタイルも、ハーモニーも・・・表現の細部も、メロディーや、構成上のバランスも、さまざまな角度から違いを意識して味わうことができます。みなさんのご理解を助けられるかどうか、が、私の課題です。

■演奏家にとっての年齢を重ねることは…

演奏家にとって年齢の要素は大切なものです。しかし、いちばん大切なものではないと思うのです。最も大事なのは、センシビリティ、理解力そのもの、ではないでしょうか。なにを感じ取り、見抜き、演奏すべき曲に正しいヴィジョン見出すことができるか。曲によってそれはすべて違うはずです。もちろん、同じ曲を繰り返しステージで演奏することにより理解が生じることもあります。例えば私の場合は、10年前にショパンの幻想ポロネーズを演奏し、しばらくあとの2010年にも演奏したのですが、そのさいに興味が目覚めた点がいくつかあり、そこを、先立つ演奏とは異なる奏法にしたのです。そのように変えることが自分にとって自然なことでした。そしてそういった変化が起こることは素晴らしいと思うのです。演奏家が年齢を重ねることで、聴衆にそのような変化をお見せできるとしたら、それは、大きな喜びですね。

 

■毎日の生活

2005年のワルシャワでのコンクール以降、生活のバランスを保つことにとても気をつけています。コンサートのスケジュールと普段の生活との間に、適切なリズムを保つことです。今でもコンサート活動が過剰にならないように注意しています。1シーズン、つまり年間で50回程度に、最多でも55回に抑えています。そのようにして普段の生活の部分を・・・レパートリーを広げるための勉強時間、あたりまえに生活して人間として成長する時間、そしてときには休養の時間を、切り詰めないように。家族や友人と過ごす時間も人生にはとても大切なものです。
そうやってバランスを保つことで、どのような曲と向かい合う場合も、きっとその曲により近づくことができるようになりますよ。

 

■マイブーム

音楽表現に関する哲学を精力的に勉強しています。5月にはポーランドの大学で、哲学のご専門の先生方・学生の方々と、ある議題について討論を行ったところです。哲学を専門とする学生のかたが200名、教授が50名ほど参加されました。
私はその機会に、ステージに設えたピアノでバッハの楽曲の部分をいくつか演奏し、実例を示して議論に参加しました。宗教的概念・思想の抽象的表現について語る場だったのです。
学位論文をすでに書き終えまして、まもなく、最終試験を受けることになります。とはいえ、心のなかにあるものを言葉で表すより、ピアノの音に乗せて表すほうが、よりしっくりくるのです。私たちの人生の瞬間瞬間の経験や感覚はじつに多様です。それらを余すところなく表現することができれば、と希(ねが)います。

 

■好きな日本食は?

お味噌汁がとても好きです。それから、しゃぶしゃぶも大好物です。私だけでなく、家族もみんな、しゃぶしゃぶは、大好きです。

 

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 私の音楽の勉強のスタート地点、それがヨハン=ゼバスティアン・バッハのさまざまな楽曲でした。オルガン曲に魅了されたことがすべての始まりです。当初私はオルガニストになろうと思っていました。 5歳か6歳のときです。毎週日曜日のミサに参加していて、そこでオルガンの音を聞き、また、あるとき、私の両親が教会のオルガニストと知り合いで、私のためにオルガンに触れるための許可を取ってくれたのです。幸運でした。興味本位で弾いてみたのです。とても楽しかったですが・・・なんというか、あのときの、あの、鳴り響く音の魅力は・・・陶酔するような感覚は非常に大切なものでした。ピアノでバッハを演奏するとき、大切にしているのはあのオルガンの音の記憶です。それを私の手がピアノ奏法に置き換えるプロセスを踏むわけですけれども・・・根底にあるのはバッハのオルガンサウンドなのです。
 
 2005年のショパン・コンクールのあと、ドイツ・グラモフォンでの最初の録音をバッハにしたいと考えていました。ですが、やはりショパン・コンクールで優勝したわけですから、まずはショパンで、ということで、「24のプレリュード」にしたのです。バッハを録音するまですこし、辛抱しました。でも結果は、それでよかったと思っています。その間に、これほどすばらしいバッハの楽曲を何度も演奏会で弾いてみて、違う音響効果、違うピアノ、いろいろ経験し、今回の録音に備えることができました。レコーディングのためにスタジオ入りする前に十分な準備ができたのです。

 オルガン曲とピアノ 曲の間には、いくつか特殊なつながりがあります。特にバッハについて言えば、私はピアノで弾くときにもオルガン式のレガートを用います。私はオルガンの基礎があるおかげで純粋なピアノ奏法とはすこし違うレガートを使いこなすことができます。もしピアノ奏法だけならば、レガートにしたければ右の足のペダルを使いますが、たとえばこのペダルの助けを借りなくても手の指だけで表せるレガートがあります。これは、オルガンを弾くときの手の使い方なのです。バッハの曲では、この奏法を使うことができる・・・いえ、使わなければならない場合があります。フィンガー・レガートと呼ぶとしましょう。フィンガー・レガートにより、音どうしのつながりが、よりかっちりと明るくなります。バロック式になるのです。ピアノで弾く前に、オルガンで同じ曲を弾いてみるという経験は、助けになります。

 今年の2月にリリースされたばかりのCDは、やっと、バッハの曲のみで構成したもので、大きな喜びを感じます。私にとってこの上なく重要な作曲家なので・・・ そして、プログラムの最初に「4つのデュエット」をお聴きいただくのは、この最新のCDの世界にみなさんをお招きするためです。バッハの楽曲にはいつもどこかミステリアスな空気があります。なにか宗教的な空気でもある。ぜひそれを、感じてください。

 

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 ショパンについて、いま自分はまさに進化の最中だ、と思います。いったいなにが変わり、なにが変わっていないか、ということを、言葉で正確には言えないのですが。流れはとてもナチュラルなもので、この作曲家とつねに対話をしている感覚、と言えばいいでしょうか、彼がなにを感じているのか、なぜ心が揺れているのか、ということを、音を通して受け止めていくようなプロセスです。今回はみなさんにピアノ・ソナタ第2番をお聴かせいたします。2年ほど前から本格的にこの曲の準備を始めました。すでに2006年にはピアノ・ソナタ第3番のほうをお聴きいただき、これはコンクールでも弾きましたが、第2番はまったく異なる曲です。演奏や録音の現場に向かうまでに、できるかぎり曲に近づく勉強が必要です。すべての楽曲にはその道筋がありますが、どれだけその中に入ってゆくことができるのか。作曲家の感動や意図を理解でき、それを生き生きと再現できるか。そこに不自然さが生じないように、わたくし自身の直感、心、人格や経験、場合によっては冒険を、織り込んでゆく。そのような準備をするのです。この作業はなにもショパンに限ったことではありませんけれども。ステージでみなさんに聴いていただくすべての曲に、同じように対峙しているつもりです。

 

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 いまベートーヴェンの勉強にとても集中しています。私はベートーヴェンの音楽が好きで、また、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の録音を考えての、本格的な準備を始めたところでもあり、彼のピアノ曲のすべてが好きです。ピアノ・ソナタも同様、今回お聴きいただくピアノ・ソナタ第3番、作品2の3は、疑う余地なく素晴らしいソナタで、私はこの曲と、そして同じく彼のロンド・作品51の2とをリサイタルの前半で聴いていただくことで、古典派奏法のよさを余すところなくみなさんにお伝えできれば、と願っています。

 みなさんがおそらく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタに対するアプローチと、ショパンのピアノ・ソナタへのそれとの違いに興味を感じてくださるのではないかと期待しています。後半のショパンのソナタ第2番との間に、いろいろな違いがあることを発見してくださるでしょう。スタイルも、ハーモニーも・・・表現の細部も、メロディーや、構成上のバランスも、さまざまな角度から違いを意識して味わうことができます。みなさんのご理解を助けられるかどうか、が、私の課題です。

 

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みなさんとの再会が待ち遠しいです。
よい演奏をいたします。それでは、皆さん、10月に!

                                   通訳:高橋美佐
                               協力:ジャパン・アーツ

 

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