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小林海都(ピアノ)

出演日:2017年12月21日(木)11:30

Thursday 21 December 2017 , 11:30

全てにおいて、誠実でひたむきに。

全てにおいて誠実で謙虚でありながら、常に向上心と好奇心、自分の意思を貫く芯の強さを持ち、生涯を通してひたむきに作品への理解を深めていきたいです。自分が信じている音楽に聴衆の方が共感し、作品の素晴らしさを共有することができるならばピアニストとしてこれ以上嬉しいことはないと思います。

フィリアホールでは何度か演奏をされていると思いますが、響きなど、ホールの印象はいかがでしたか?

地元のホールということもあり、幼い頃からコンクールやコンサートで演奏する機会がありましたので、フィリアホールのもとで成長してきたといっても過言ではないと思います。とても美しい響きを持つホールだという印象はずっと変わりませんが、最後に演奏したのは4年前の留学する前で、考え方や価値観も大きく変わってきているので、今の自分がどのように感じるか、とても楽しみにしています。

 

現在はスイス・バーゼル音楽院、その前はベルギーで学ばれていました。日本と海外で学んでいるときの違いなどがあれば、教えてください。

まずヨーロッパの空気の中にいるということ自体が1番勉強に大きく影響を与えているのではないかと思います。日本と比べてゆったりと流れる空間はより心に余裕を持たせてくれますし、歩く時間も大幅に増えました。すると周りのちょっとした日々の変化にも気がつくようになり、その発見から喜びや悲しみといった感情の起伏の変化にもより敏感になります。作曲家や作品からのメッセージを受け取るセンサーはこれと全く同じもので、日々の心の状態が音楽を受け止める感受性と密接に関わっていることを感じます。

 

一方で、東京や横浜市内でも演奏の機会があったかと思います。日本の聴衆の印象はいかがですか?

ヨーロッパの人々は、どこで宣伝されているかもわからないような小さな演奏会にですら、時間になると人が沢山集まってくるといった気軽さや身近さを感じます。一方で、日本の聴衆は時に緊張感も孕みますが、それは演奏会に対する関心の高さ故とも思います。謙虚でありながら演奏家への賛辞の気持ちが込もった温かい拍手一つとっても、国民性が出るものだなと思います。

 

巨匠マリア・ジョアン・ピリス(ピレシュ)さんに学ばれています。ピリス氏から学ばれたことで、最も印象深いことを教えてください。

ピリス先生と初めて日本でお会いしてから早くも4年半以上経ちますが、僕の人生が大きく変わり、本当に沢山のことを学ばせていただいていることは言うまでもありません。
(前の質問に関連していますが)僕がその中で最も印象に残っていることは、日常生活や環境と音楽との密接な関係性についてです。これまでにも度々ピリス先生のお宅に滞在させていただく機会がありましたが、特に今の拠点地であるベルガイシュは180度大自然に囲まれており、ピリス先生のどこまでも自然な音楽を象徴していると思わざるを得ないほど、ある意味で別世界がそこにはあります。人工的な騒音は無く、澄んだ空気に微風に揺れる葉擦れの音と鳥のさえずり、晴天に輝く満天の星空、そしてそこで有機栽培された食材を使った食事。このような環境に身を置くことで、日々の心配事や雑念を自然と忘れさせ、体の本能に対して自分がより純粋に反応していることに気が付きました。ピアノを演奏する上で「どこで体が呼吸したいのかを考えるのではなく、感じるのだ」というピリス先生のお言葉はそういった背景から来ているのだと思います。ピリス先生のもとで勉強させていただくことは、ピアノはもちろんのこと、芸術家の人生を学ぶといった感覚の方が近いような気がします。

 

ピリス氏以外に、これまで共演された中で印象に残ったアーティストがいましたら教えてください。

1人はヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイさんです。ピリス先生にお会いして間もなく紹介していただき、それ以来室内楽のレッスン等でも度々お世話になっていますが、昨年の秋にはデュオで共演させていただく機会がありました。洗練された美しく表情豊かなヴァイオリンの音色にインスピレーションをもらいながら、沢山のことを学んだ至福の一時でした。
もう1人とても印象に残っている共演者は、エフゲニ・ボジャノフさんです。とても個性的な演奏をされる方で、初めは連弾で息が合うか不安だったのですが(笑)、驚くほど上手く合いました。僕にはないものを沢山持っている方で、間の取り方やペダルの使い方等、彼のピアニズムを真横で感じ、とても刺激的な演奏会だったことを覚えています。

 

今回のプログラムはブラームス、ラヴェル、ストラヴィンスキーの編曲とバラエティに富んでいます。その聴きどころを教えてください。

息の長い演奏家になるために、僕はまだ学生として勉強に専念しなければいけない時期だと思っているので、今は色々なレパートリーを弾くことを心がけていますが、今回のプログラムはそういった意味でかなり挑戦的な選曲となっています。ドイツの若きブラームスの生命力と情熱が溢れる《ピアノ・ソナタ第1番》、曲全体に気品を持ちながら時に華やかに、時にアンニュイに、又ジャズ風にと繊細に雰囲気が次々と変化し、ラヴェルらしさが凝縮された《優雅で感傷的なワルツ》、オーケストラならではのスケールの大きさや色彩感を再現するべくあらゆるテクニックがふんだんに効果的に盛り込まれたストラヴィンスキーの《火の鳥》。ピアノという楽器を使って3曲を通して如何に別世界へと誘うことができるか、という奏者にとっては挑戦的でありながら、同時に聴衆にとってはそこが聴きどころだと言えるプログラムです。

 

オフの日は何をして過ごしていますか?

留学をしていると日々の練習や学校の授業内容以外に、身の回りのことは全て自分でやらなければいけませんし、語学勉強もあるので、完全なオフの日というのはなかなか取れないのですが、気分転換にライン川沿いを散歩したり友達とバーベキューをしたりしています。

 

今後、どのようなピアニストになりたいですか?

全てにおいて誠実で謙虚でありながら、常に向上心と好奇心、自分の意思を貫く芯の強さを持ち、生涯を通してひたむきに作品への理解を深めていきたいです。自分が信じている音楽に聴衆の方が共感し、作品の素晴らしさを共有することができるならばピアニストとしてこれ以上嬉しいことはないと思います。

 

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