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クリスチャン・ツィメルマン (ピアノ)

出演日:2014年1月23日(木)19:00

Thursday 23 January 2014 , 19:00

ベートーヴェン後期三大ソナタへの挑戦 Ⅰ

2009年の日本ツアーでも演奏されましたね。

そう、ごく最近のことです。しかし、3つのソナタを併せて演奏するのは、まったく別の問題です。そして、まとめて演奏するということが、私を不安にさせるのです。

 

それら3つのモンスターが。

そう、まさに3つのモンスターです。一作ごとにまったく異なる構築をみせますし、ベートーヴェンはそこでなおも自分自身を発展させているのです。フーガをごらんなさい、どの曲のフーガも異なっています――作品109、110、111それぞれに。だから、彼はまだ努力を続けていたのです。彼は病気で、ほとんど死にかけていた――いや、亡くなるのは6年後のことですが。彼は依然として果敢に実験を進めていたのです。同じ時期には『ミサ・ソレムニス』を書いているのですよ。なんという壮大なプロジェクトだったことでしょう。
そして、今回のリサイタルを困難にしている、いくつかの問題があります。
ひとつは、《ロマンティック》に演奏するか、そうはしないかという問題です。《ロマンティック》というのは、非常に多くの場合、人々に誤解されている概念だからです。ベートーヴェンの時代にはまだ《ロマン派音楽》というものはまだ存在していなかったのです。別の見方をすれば、自分たちの時代が《ロマン主義時代》と呼ばれることを、当時の人々は知らなかった。彼らはロマンティックであることを知っていたはずです。バッハはおそらく自分をロマンティックだと考えていたでしょう。100年後にもっとロマンティックな時代がやってきて、そちらが《ロマン主義時代》と称されることなど知らずに。そして、その後に、《ネオ・ロマンティック》という時代がやってくることもね(笑い)。だから、バッハはたぶん、あらゆる人間がそうであるようにロマンティックだったのでしょう。

 

なるほど。あなたの言うとおりでしょう。

ベートーヴェンにも同じことは言えます。ロマン主義時代へと決定的に変化しようとしていく時代に、より古典的な手法を用いて、そこにバランスを見出していた。シューベルトが『冬の旅』を書いていた時代ですからね。ゲーテが『ファウスト』を書き、ターナーが絵を描いていた頃の話ですよ。
これこそが難点なのです。チャイコフスキーやラフマニノフの手法を用いることなく――それは誤りですから――、しかし作品をロマンティックに演奏しなければならない。心から演奏し、冷たいものにしてはいけない。

 

精神においてロマンティックであれ、ということですね。

そう、そうです。時代の様式を用いつつ、全霊をもって演奏する。感情の内にある狂気を最大限に発揮して。ベートーヴェンという人間はクレイジーだったのだから――これは疑いようもないことです(笑い)。

 

<インタビュー・文 青澤隆明、協力:ジャパン・アーツ>

 

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